出前館が構築した“安全に使える翻訳インフラ”
SCIM連携とガバナンス設計で実現した全社展開モデル
社員が安心して使える翻訳環境をどう整えるか──。
この課題に正面から取り組んだ、出前館の情報システム部のケースです。部門ごとに異なるツール利用が進むなか、翻訳を「全社員が安全に使えるインフラ」として新たに構築。SCIMによる自動管理と明確なガバナンス設計により、管理負担を減らしつつ、安心して運用できる環境を整えました。
その背景には、急速に拡大する多言語対応の波と、部門ごとに異なるツール利用による“グレーな運用”の課題がありました。


株式会社出前館
1999年創業の国内最大級フードデリバリー企業。飲食店や小売店と利用者をつなぐプラットフォームを展開し、全国で迅速な配送網を構築。現在は約400名規模で事業を運営している。
ウェブサイト:https://corporate.demae-can.co.jp/

お話しを伺った方
株式会社出前館
情報システム部 / IT戦略グループ
グループマネージャー
足立 隆裕氏
課題・懸念
・部門ごとにバラバラなツール利用
・明確な利用ルールの欠如
・アカウント管理への不安
期待
・社内システムと連携した安全な翻訳基盤の構築
・社内ポリシーに合わせた柔軟なカスタマイズ対応
・用語統一による翻訳品質の向上
1. 背景:拡大する多言語対応と“グレーな運用”の限界
出前館では、社内外でのやり取りに多言語が求められる場面が増え、翻訳ニーズが高まっていました。
一方で、各部門がそれぞれ異なるツールを使い、なかには個人アカウントで利用しているケースも。結果として、セキュリティや規約面でリスクを抱える状況になっていました。
「社内で“使っていいツール”が明確でなく、現場はもやもやしたまま翻訳を行っていました」
——足立氏
情報システム部では、こうした状況を解消するために「社員が安心して使える翻訳環境」の整備を決断します。ただ単にライセンスを配るだけではなく、ガバナンスと利便性を両立する“オフィシャルな翻訳基盤”を構築することを目指しました
2. 選定プロセス:社内アンケートで見えた“本当のニーズ”
導入に当たり、まず社内の翻訳利用実態を把握するため、情報システム部は全社アンケートを実施しました。
最も多かった回答は「無料翻訳ツールの精度とセキュリティへの不安」。
多くの社員が翻訳結果のばらつきや、外部クラウド利用への懸念を挙げており、安心して使える翻訳ツールの必要性が明らかになりました。
さらに、「ファイル単位で翻訳できる仕組みが欲しい」という実務的な声も多く、契約書やプレゼン資料など業務に直結するニーズが浮き彫りになりました。
これらの結果をもとに、複数の翻訳ツールを比較検討した出前館は、利便性と安全性を両立できるサービスを選定基準としました。
最終的に、ファイル翻訳の再現性、複数エンジンの柔軟な切り替え、用語集の運用性、そしてセキュリティ対応の明確さなどが評価され、ヤラク翻訳の採用を決定。
特に、他ツールでは曖昧にされがちな「翻訳データの二次利用を行わない」旨を明確に規約で示していた点が、大きな決め手となりました。
「便利でも『会社で使っていいのか分からない』という声が多く、“安心して推奨できる環境”を整えることが私たちの使命だと感じました」
——足立氏
3. 導入プロセス:SCIM連携で、翻訳ツールを“運用できる仕組み”へ
次に取り組んだのは、選定したツールを“安全に運用できる全社基盤”として定着させることでした。
個々のユーザーが自由にツールを使う状態から脱し、社内システムと連携した一元的な運用を実現するための設計です。
社内のワークフローシステム「kickflow」とID管理システム「Okta」、そしてヤラク翻訳を連携させ、SCIM(System for Cross-domain Identity Management)による自動化を実現。
これにより、利用申請からライセンス付与、退職・異動時のアカウント削除までがすべて自動で行われる仕組みを構築しました。
従来は情報システム部が手動で行っていたユーザー管理や棚卸し作業が不要となり、アカウント管理の正確性と効率性が大幅に向上しています。
「これまでのように人手でアカウントを管理する必要がなくなり、『誰がいつ使っているか』を可視化できるようになりました」
——足立氏
こうした高度な連携を実現できたのは、出前館側の明確な運用ポリシーと、ヤラク翻訳が標準プロトコルであるSCIMに対応すべく柔軟に対応したからです。
「一般的なSaaSツールでは、会社の仕組みに合わせて連携できるケースは限られています。その点、ヤラク翻訳は技術面での相談にも柔軟に応じてくれたので、社内の運用ポリシーを崩すことなく導入できました」
——足立氏
ヤラク翻訳では、こうした個別要件に対応できる体制を整えており、お客様のシステム構成や運用フローに合わせて、安全かつスムーズな導入を支援しています。
単なるツール提供にとどまらず、企業の“翻訳インフラ”として最適化されるまで伴走できるのが、ヤラク翻訳の強みです。
4. 社内展開と活用の広がり現場の自走と、用語統一による精度向上
SCIM連携を軸にした仕組みの整備によって「安心して使える翻訳環境」が社内に定着し、たことで、現場ではヤラク翻訳の活用の幅が広がっていきます。
当初は、韓国語の資料読解や加盟店との契約書対応など、限られた用途が想定されていました。いざ導入すると、予想を超えた使われ方がみられるように。
海外ブランド本社向けのプレゼン資料の翻訳をはじめ、研修資料や社内共有ドキュメントなど、部門や文書種別を問わず多様なシーンでヤラク翻訳が使われるようになりました。
「部署ごとにバラバラに進めていた翻訳が、統一されたルールのもとで行えるようになりました。管理側にとっても、各部門の利用状況を可視化できるようになったのは大きな成果です」
——足立氏
用語集の整備で翻訳品質を“資産化”
利用が広がるなかで、同じ用語でも訳語がバラバラになるという課題が浮かび上がりました。特にサービス名や社内略語の表記ゆれが発生しやすく、「どれが正しいのか」が分からない状態になっていたのです。
出前館ではこの課題に対し、ヤラク翻訳の用語集機能を活用し、社名・サービス名・社内略語などの表記ゆれを防ぐ仕組みを整備しました。用語集は情報システム部が中心となり、関係部門と連携して定期的に更新。部署を超えた共通資産として翻訳の品質を底上げしています。
「翻訳ツールの精度に頼るだけでなく、社内の知見を活かして“会社としての言葉”を整えていくプロセスを作れたのは大きな成果です」
——足立氏
生成AIとの棲み分けも明確に
出前館では、生成AIツールも業務の一部で活用していますが、用途を明確に区分することで、安全性と効率性を両立しています。
日常的な軽い翻訳や要約には生成AIツールを、ファイル翻訳や機密文書、用語統一が求められる業務にはヤラク翻訳を活用。目的ごとにツールを使い分けることで、「スピード」と「ガバナンス」を両立する翻訳体制を確立しました。
社内の他システムとの連携も視野に
出前館では今後、部門別の用語集展開や社内ポータルでの利用ガイド整備など、翻訳業務のさらなる効率化に取り組んでいく予定です。また、他の社内システムとのAPI連携も視野に入れ、ヤラク翻訳をより広い業務基盤として位置づけていく構想です。
「ヤラク翻訳は“導入して終わり”ではなく、社内の運用ルールとともに成長していけるツールだと感じています」
——足立氏
5. 効果と今後の展望──翻訳を“仕組み”から“文化”へ
出前館では、ヤラク翻訳の導入を通じて、翻訳が “個人の作業”から“全社で安全に管理される仕組み”へと進化しました。
SCIMによるアカウント自動管理により、情報システム部の運用負荷が軽減されるとともに、セキュリティ面の信頼性も向上。各部門が自律的に活用し、全社で統一されたルールのもとで翻訳品質を維持できる環境が整いました。
「これまで『誰が使っているのか』『退職者のアカウントが残っていないか』といった棚卸しに時間を取られていましたが、いまはシステム上で自動的に管理できています。管理者の負担を減らしながら、安全に全社へ展開できる環境が整いました」
——足立氏今後は、部門ごとの用語集展開や社内ポータルとの連携に加え、他の社内システムとのAPI連携など、翻訳業務のさらなる効率化と拡張が進む見込みです。
ヤラク翻訳は、こうした各社固有のワークフローやセキュリティ要件に合わせた最適化を柔軟に行える体制を持ち、出前館のような全社展開モデルを今後も支えていきます。
編集後記
出前館の事例に見られるように、翻訳はもはや一部門のタスクではなく、企業全体のガバナンスとコミュニケーションを支える基盤になりつつあります。
八楽では、こうしたお客様の取り組みを支えながら各企業のワークフローや運用ポリシーに寄り添った導入を支援いたします。