命を守る情報を、国籍や言葉の壁を越えてすべての町民に届ける
長野県箕輪町
箕輪町が“多言語対応”にヤラク翻訳を選んだ理由
長野県上伊那郡に位置する箕輪町。人口約2万4,000人のこの町では、バブル崩壊やリーマンショック、新型コロナウイルスの影響により一時減少した外国籍住民の数が、近年、再び増加に転じています。
増加しているだけでなく、国籍にも変化が見られ、以前と比べて多様な国籍の住民が暮らすようになっています。
多文化共生を掲げる箕輪町では、外国語支援の日本語教室などさまざまな取り組みを進めています。このような状況の中で、箕輪町は翻訳支援ツールの「ヤラク翻訳」を導入しました。導入に至る背景やその狙いについて、お話を伺いました。


お話しを伺った方
長野県箕輪町
くらしの安全安心課
多文化共生・男女共同参画推進室
課長兼室長 小田切さん
課題
長年暮らしていても救急車の呼び方を知らない人もいる
命に関わる情報が外国籍住民に十分に届いていない
フィリピン、ベトナム、インドネシア、中国など国籍の多様化が進んでいる
多言語で発信することの必要性
期待
ポルトガル語や英語での発信だけでなく、多言語での発信が可能
特別な研修を受けなくとも使いこなせる使いやすさ
個人情報の漏洩の心配がないセキュリティ
導入コストが安い

小田切課長(中)と多文化共生・男女共同参画推進室の職員の方々
“コロナ禍”で目の当たりにした危機感
新型コロナが流行した時期に、企業に雇い止めされた外国籍住民からの相談が増え、従来の日本語中心のサポート体制では対応が追いつかない状況になってしまいました。当時は翻訳体制が整っておらず、翻訳ツールの必要性を痛感しました。
また、20年以上、暮らしていても救急車の呼び方や災害時における避難所の存在を知らない方がいらっしゃいました。命に関わる情報が届いていないという事実を目の当たりにし、町として強い危機感を抱きました。
“伝わらないのは仕方ない”で済ませてはいけない
外国籍住民も税金を納める町の一員です。にもかかわらず、災害や医療など「命を守るために必要な情報」が十分に届いていないという現実に対して、「伝える責任」を強く意識するようになりました。
外国人だから伝わらなくても仕方ない、ではなく、行政がどれだけ本気で伝える努力をするかが問われていると思いました。ちょうどその頃、日本語教育の推進に関する法律が施行され、自治体に対しても外国人支援の取組が求められるようになってきました。さらに、技能実習制度に代わる新制度の導入により、より多くの外国人が地域に定着することが見込まれています。
箕輪町としても、外国籍住民に「選ばれる町」になるために、多言語対応の強化は避けて通れない課題となっていたのです。
ヤラク翻訳との出会いと導入の決め手
そんな中、町が委託していた多文化共生コーディネーターが、ある研修で「ヤラク翻訳」のことに触れていて、ヤラク翻訳の存在を知りました。
コストや精度、セキュリティの観点から、現場の要件を満たす選択肢として検討されたのがヤラク翻訳でした。
仮に、導入後に失敗だったなと思っても、年間十数万円なら試す価値はある。そう考えました。実際に導入前の説明会でも懸念点に丁寧にご対応いただき、安心してスタートできました
2025年4月にヤラク翻訳を導入しました。
人の工夫とツールの力で支える多言語対応
外国人生活相談員と担当課職員が中心となり、ヤラク翻訳を活用しています。
住民への通知文やイベントの案内チラシ、町立学校の年間予定表といった実務において、日々多言語への対応が求められる場面で活躍しています。
ただし、いきなり日本語から機械翻訳を行うと、どうしても意味が通りにくくなることがあります。そこで、まず日本語からポルトガル語に人の手で翻訳したうえで、それをヤラク翻訳で他言語に展開するという“二段階の翻訳プロセス”で実務にあたっています。その結果として、精度とスピードの両立を実現しています。
一見手間のように見えるかもしれませんが、逆翻訳なども活用しながら精度の確認もしやすく、最終的には全体の効率が上がっています。
多言語対応の“ハブ”として活躍する相談員たち
ヤラク翻訳の運用において中核を担っているのが、「外国人生活相談員」です。現在2名体制で、町内の各課からの翻訳依頼を受け、ポルトガル語を基軸としながら、他言語への翻訳業務を担っています。
「ヤラク翻訳を使う前は、自分で調べながら1つずつ翻訳していたので、すごく時間がかかっていました。今は、複数の言語を一気に出力できるので、本当に助かっています」 ――外国人生活相談員(ポルトガル語ネイティブ)
翻訳結果の確認においても、逆翻訳や他ツールとの併用を通じて意味が通っているかどうかをしっかり確認し、精度を高めています。
ゴミの出し方から年間行事まで、翻訳ニーズは日常の中に
すでにさまざまな文書を多言語対応しています。
たとえば、ゴミの出し方の案内チラシをインドネシア語に翻訳したり、町の防災フェスタのチラシをベトナム語に翻訳したりするなどして、ヤラク翻訳を活用しています。


災害時にも「伝わる備え」を。5言語展開を進める
災害時の避難行動を支える「ハザードマップ」も、これまでは日本語版のみの提供でしたが、現在は5言語(ポルトガル語、ベトナム語、タガログ語、インドネシア語、中国語)への多言語化を進めており、年度内の完成を目指しています。
命を守る情報こそ、すべての住民に届かなければ意味がありません。9割の外国籍住民がカバーできる5言語を揃えることで、町としての備えを強化していきたいと考えています。
情報格差をなくし、住民としての平等を実現したい
外国籍住民も、私たちと同じように働き、税金を納めている大切な住民です。であれば、自治体として提供する情報も、本人が理解できる形で届けなければ不平等です。“伝わらなくても仕方ない”というのは、伝える側の甘えであり怠慢だと思っています。
納税の義務だけが課されて、情報は届かないというのでは、憲法の掲げる平等の理念にも反してしまう。そうならないために、私たち行政が変わらなければいけないのだと思います。
導入のハードルは“高くない”と伝えたい
他社製品に比べてランニングコストが圧倒的に低く、個人情報保護にも十分配慮されていること。そしてなによりも、操作に慣れた担当者が“ハブ”となって翻訳を一括対応するという運用体制が、庁内に無理なく浸透していることが、箕輪町での成功を支えています。
導入しない理由がない。そう思っています。
編集後記:自治体間で「支援の常識」が共有される未来へ
取材を終えて感じたのは、箕輪町の取組が「誰もが理解できる情報へのアクセス」を当たり前にする第一歩であるということ。ヤラク翻訳のようなツールが、全国の自治体にもっと広がれば…そんな思いを抱かずにはいられませんでした。