IR資料の日英同時開示、その舞台裏|ラウンドワンが選んだ翻訳DXとは
アミューズメント業界をリードし、近年は米国でも事業を拡大している株式会社ラウンドワン(以下、ラウンドワン)。グローバルな事業展開を加速させるラウンドワンにとって、IR資料の日英同時開示の義務化は翻訳業務における大きな挑戦でした。
かつて1週間ほどの猶予があった日本語から英語への翻訳プロセスは、同時開示の義務化により一変し、従来のツールではコスト、属人化、作業効率の面で限界を感じていました。
この難局を乗り越えるために導入したのが、生成AIを搭載した翻訳支援ツール「ヤラク翻訳」です。最前線で翻訳業務に当たる二人にお話しを伺いました。


お話しを伺った方
株式会社ラウンドワン
管理本部経理部 中濱さん(左)
株式会社ラウンドワン
管理本部財務部 平山さん(右)
課題
・既存の翻訳ツールコストの都合上、経理部で1アカウントしかなく、依頼に手間がかかる
・文字数制限により、長文の契約書を分割して翻訳する必要がある
・用語集機能が活用されておらず、社内用語などの表記揺れが発生していた
期待
・コストを抑えつつ、より多機能なツールを利用する
・複数人で利用できる環境を構築し、属人化を解消する
・翻訳作業の時間を5〜10%削減し、コア業務に集中する
・IR資料の日英同時開示に、スピードと精度で対応する
迫る開示期限、IR翻訳の“壁”に挑む
ラウンドワンでは、ヤラク翻訳の活用が多岐にわたりますが、特に重要度が高いのがIR資料の翻訳。外国人投資家への公平な情報提供の観点からIR資料の日米同時開示が義務化*され、従来のように日本語版を開示した後に、英語版を公表するという形は取れなくなりました。
*東京証券取引所は2025年4月1日から、プライム市場に上場する企業に対し、決算短信などの重要なIR情報を日本語と英語で同時に開示することを義務化しました
これまでもタイトなスケジュールだったにも関わらず、翻訳作業にこれまで以上にスピードと精度が求められるようになったのです。
「今まで以上にスピードと精度が求められるので、早めに使わせていただけないかと八楽さんにお願いした経緯があります」(中濱さん)
IR特有の二つの困難「レビュー人材・同時開示」
ラウンドワンのIR実務では、
・英語レビュー担当者が部内に3名のみ
・日英同時開示
という二つの課題を抱えていました。
1)英語レビュー担当者が部内に3人のみ
約30名が在籍する経理部に、英語レビューを正確に行える担当者は部内に3名のみ。この3人に頼らざるを得ない状況になっていたことに加えて、それぞれの得意領域(文法に強い人/IR目線で表現の含意を判断できる人/数値記述や勘定科目の整合性を追える人)があり、リソース不足が顕著だった。
2)日英同時開示の義務化
英語版開示までの時間的猶予が消失。スピードアップが必要な状況に。
こうした“二つの困難”を前に、従来の翻訳体制では対応が難しい場面が増えていったといいます。
「まずは“短時間で一定品質の下訳をつくる”ことが必要でした。 そのうえで英語が得意なメンバーが細かい言い回しを整える。この体制を整えられないと、同時開示には到底間に合わなかったと思います」(中濱さん)
ヤラク翻訳では、各担当者が日本語原稿をもとに瞬時に英訳初稿を作成し、複数の翻訳エンジンを比較しながら訳文の妥当性(数値・用語・文意)を確認。これにより、レビュー担当者はチェックすべきポイントのみに集中できるようになりました。
その結果、
- 修正への追従スピードが向上
- 初稿品質が揃い、レビュー負荷が軽減
- 3名に集中していたチェック工程のボトルネックが緩和
- IR資料に求められる数値・用語の一貫性を維持しやすくなった
という、同時開示に向けての社内体制の構築へと繋がりました。
ヤラク翻訳の決め手は“費用対効果”と“多機能性”
ヤラク翻訳の導入効果はIR領域にとどまりません。50万字に及ぶ契約書や日常業務のちょっとしたメール文面の翻訳にも活用しています。
ラウンドワンではこれまで別の翻訳ツールを利用していましたが、会社の状況に適していなかったと2人は振り返ります。
「コストに見合ってないなと感じる部分がありました。アカウントを追加すると多額のコストが発生するので、経理部に振り分けられるのは1つのアカウントだけ。翻訳できる文字数に上限があることも使いづらかった理由でした」(平山さん)
海外店舗のリース契約書は100ページ、文字数にして50万字に及ぶことも。文字数制限を気にしながらの翻訳は、業務効率を著しく低下させる要因になっていました。
こうした状況を受けて、契約更新のタイミングで本格的にツールの見直しを決定。Web検索でヤラク翻訳の存在を知りました。類似のサービスを比較した結果、決め手となったのは「費用対効果」と「多機能性」でした。
「利用料金に対して、できることの多さが魅力でした。複数の翻訳エンジンから選べること、用語の共有ができること、マイカンパニーという独自の用語の登録ができること。そこが他社サービスと比べて、良かったなと思う部分です。一方でPDF翻訳をかけた際に体裁が崩れたり、翻訳がなされなかったり、誤訳が発生することも多いので、今後の改善に期待しています」
(注釈)翻訳エンジンによって異なりますが、ヤラク翻訳で一回当たりに翻訳できる最大の文字数は15万文字です。
属人化からの脱却と“チームでの翻訳”
ヤラク翻訳の導入を機に翻訳業務の属人化と特定の人への依存する体制の脱却を図ります。
現在は海外店舗の立ち上げを担当する事業部、法務部、総務部にもアカウントを付与し、全社で翻訳できるベースを構築しました。これにより、翻訳の初稿づくりを各担当者が自分で進め、最終確認だけ英語が得意な社員が行う——という役割分担が機能し始めています。
UI(ユーザーインターフェース)の分かりやすさも導入を後押しした要因です。
「UIが結構個人的には好き。見た目がいいなっていうのがあるので、やっぱりそこは効果的だったのかなと感じています」(中濱さん)
直感的に使えるため、利用に際してのトレーニングを必要とせず、英語が得意ではない担当者でも抵抗なく使えることが部門を横断しての運用につながっています。
ヤラク翻訳が持つチーム編集機能と、誰にとっても使いやすいユーザーインターフェースによって、「チームで翻訳する」体制に移行しています。

翻訳作業時間を5〜10%削減できた理由
導入効果は、具体的な数字となって表れています。
業務メールの英語化といったちょっとした用途でもヤラク翻訳を使うことで、翻訳作業に充てる時間を削減できています。
「作業時間を5〜10%削減できたかなと感じています。他社サービスを使っていたときは『この翻訳は本当に合ってるのかな』と、別の翻訳サイトに入れてチェックしていました。ヤラク翻訳の複数の翻訳エンジンに表示される翻訳文をチェックすれば『これで合ってるんだな』と分かります。作業時間が短くなったことを実感しています」(中濱さん)
ヤラク翻訳は複数の翻訳エンジンを搭載し、エンジンごとに翻訳文が表示されます。

※画像右側のようにClaude、GPT-4.1、ヤラク翻訳、Google翻訳などの英文が表示される。エンジンによって多少表現が異なる。
ヤラク翻訳内で複数の翻訳結果を比較・検討できるため、外部サイトで再検索したり、訳文の妥当性を確認したりする手間を削減できます。この「確認作業の削減」が、トータルでの時間短縮に大きく貢献します。
今後の展望:外部に委託している翻訳の内製化へ
ラウンドワンでは現在、一部の翻訳作業を外部委託していますが、今後は内製化する計画です。
ラウンドワン独自の用語やビジネスに即した表現もヤラク翻訳の用語集機能を使えば、表記揺れの減少が期待できます。
例えば「クレーンゲーム機」。
一般的な英訳には“crane game machines”、“prize machines”、“claw machines” など複数の候補があります。
ヤラク翻訳に学習させることで、どの担当者が翻訳してもIR資料に使用している「crane game machines」と必ず同じ表記で訳出される体制を整えました。IR資料では、表記が揺れることは許されず、統一した表記が求められます。
「しっかり”用語”を覚えさせて今後は軽微な修正で済むレベルまで精度をあげていけるようにしていきたいと思っています」(平山さん)
この取り組みにより、さらなる翻訳業務の内製化と品質向上、そしてコスト削減を目指します。
編集後記:翻訳ツールがもたらす、真の“グローバル標準”へ
今回の取材で印象的だったのは、ヤラク翻訳が単なる「翻訳作業の効率化ツール」に留まらず、企業の「グローバルなコミュニケーション基盤」として機能している点です。
特に、投資家向け情報という重要な領域で属人化していた翻訳業務を平準化し、担当者が変わっても品質を維持できる体制を構築したことはラウンドワンだけでなく、他の企業にも適用できうる好例だったと感じます。

株式会社ラウンドワン
1980年創業で、大阪市に本社を置くボウリング・アミューズメント・スポッチャを展開する総合エンターテインメント企業です。多様なレジャー体験を提供しながら米国でも拡大しています。
ウェブサイト:https://www.round1-group.co.jp/