社内で自社ウェブサイトをタイ語に翻訳した際、AI翻訳で作成した初稿は一見問題ないように思えました。しかし、ネイティブチェックを行うと、スペースや句読点、機能名の訳し方といった細かな選択が、タイ語としての自然さを損ねていることがわかりました。本記事では、実際の翻訳で得た知見をもとに、用語集やスタイルガイド、カスタムプロンプト、ポストエディットを活用し、AI翻訳の初稿を一貫性のあるWeb・UIテキストに仕上げる方法を解説します。
1. タイ語のWeb・ビジネス翻訳が不自然になる理由
AI翻訳により、タイ語コンテンツを以前より短時間で公開できるようになりました。私たちも、日本語と英語を原文としてウェブサイトをタイ語に翻訳した際、そのスピードを実感しました。一方で、初稿は大意を伝えていても、タイ語のWebテキストとして自然ではない部分がありました。
問題は、ひと目でわかる重大な誤訳だけではありません。英語のスペースがそのままタイ語に持ち込まれている、関連する画面で同じ機能名が異なる訳になっている、文法的には間違いでなくてもUIとしては直訳調である、といった小さな問題が重なります。
このような問題は、タイ語でサービスを利用するユーザーが機能をすぐ理解できるか、製品情報に信頼感を持てるか、現地スタッフが翻訳後の修正にどれだけ時間を費やすかなど、様々な点に影響します。
2. 押さえておきたいタイ語の表記ルール
タイ語のスペースは英語と同じではない
タイ語では、スペースは、文や節、人名、数字、箇条書きなど、より大きな単位を区切るために使われます。タイ王立学士院も、狭いスペースと広いスペースの使い分けについて詳しいルールを示しています。ローカライズで重要なのは、原文のスペースを機械的にタイ語へ移さず、タイ語の文中でどのような役割を持つかを確認することです。
私たちのウェブサイト翻訳で最初に見つかった課題の一つも、AIが出した訳文に入ったスペースでした。一見すると小さな違いですが、タイ語の自然な流れを妨げていたようです。実際のAI翻訳とネイティブチェック後の修正を見てみましょう。
原文:Elevating quality and accelerating speed through AI and human editing.
修正前:กระบวนการแปลที่ยกระดับคุณภาพและเพิ่มความเร็ว ด้วยการแปลอัตโนมัติและการปรับแก้หลังการแปล
修正後:กระบวนการแปลที่ยกระดับคุณภาพและเพิ่มความเร็วด้วยการแปลอัตโนมัติและการปรับแก้หลังการแปล
ポイント:ด้วย の前のスペースは不要でした。削除することでタイ語の流れとしてより自然になります。
見た目にはわずかな修正ですが、大規模なウェブサイトでは同じパターンが繰り返し発生します。レビュー担当者が一つずつ修正していくと、同じ問題の対応だけで何時間もかかる可能性があります。
タイ語でも疑問符は使われる。ただしUIの方針は別に考える
タイ語でも疑問符は使用されます。タイ王立学士院は、疑問文の末尾や、不確かさを示す文章で疑問符を使用すると説明しています。しかし、ローカライズをする際にはそのタイ語文とインターフェースのスタイルに疑問符が合っているかどうかを確認する必要が出てきます。
私たちが最初にウェブサイトを翻訳したとき、AIは原文の句読点を引き継ぎ、疑問の形になっているテキストすべてに疑問符を付けました。しかし、タイ語ネイティブのレビューでは、今回の短いWeb・UIテキストについては疑問符を省略する方が自然で、一貫性も保ちやすいとの指摘がありました。これはタイ語全般のルールではなく、このプロジェクトにおける方針です。代表的な例を見てみましょう。
原文:Are you ready to get started?
修正前:พร้อมเริ่มใช้งานแล้วหรือยัง?
修正後:พร้อมเริ่มใช้งานแล้วหรือยัง
ポイント:どちらも意味は通じますが、今回のウェブサイトではネイティブレビューにより後者を採用しました。原文の句読点を常にそのまま移すのではなく、方針を決めて一貫して適用することが重要です。
3. タイ語のWeb・UIローカライズで起こりやすい3つの問題

私たちはWebサイトをタイ語へ翻訳する際、タイ語ネイティブスタッフと確認しながら、AIが単独のテキストだけでは判断できなかったポイントを整理しました。その中で、次の3つの問題が繰り返し見つかりました。
問題1:関連する機能名の訳がばらつく
翻訳エンジンは、基本的に入力されたテキストをもとに訳文を生成します。たとえば、用語集を適用せずに関連するラベルを個別に翻訳すると、それぞれ単独では妥当に見えても、製品内で訳語がばらつくことがあります。
原文:Phrases / My Phrases / Company Phrases
修正前:วลี / คลังวลีของฉัน / วลีของบริษัท
修正後:วลี / วลีของฉัน / วลีของบริษัท
ポイント:修正前は、My Phrasesにだけ「保管庫」を意味する คลัง が加わっているため、3つの機能の関係がわかりにくくなっています。Phrasesを วลี と用語集に登録し、関連する機能名にも同じ訳語を使うことで、表記と機能の関係を一貫させられます。
用語集には対象となる語句だけでなく、それぞれの承認訳を使用する文脈(「製品内に表示する機能名」「製品から自動送信されるメールのCTAボタン」など)も定義すると、翻訳データをより有効に活用できます。
問題2:直訳ではUIの表現が硬くなる
辞書上の訳語が、そのまま最適なUI表現になるとは限りません。短いラベルでは、画面のトーン、表示スペース、機能に合う言葉を選ぶ必要があります。文法的に成立していても、直訳では必要以上に硬く感じられる場合があります。
原文:Human review
修正前:ตรวจสอบโดยมนุษย์
修正後:ให้คนตรวจสอบ
ポイント:มนุษย์ は「human」の直訳に近い語ですが、親しみやすい製品フローのラベルとしては硬く聞こえます。คน の方が自然でありながら、AI翻訳と人によるレビューの違いも保てます。
問題3:一語ずつは正しくても、長い説明文全体が不自然になる
長い製品説明では、別の問題も起こります。個々の単語は正しくても、組み合わせや語順が原文の構造に引っ張られ、文章全体が機械的になったり、考え方の関係がわかりにくくなったりします。
原文:Yaraku Translate displays the source and translated text side by side, making it easier to check and fix mistranslations and omissions.
修正前:Yaraku แปลภาษาแสดงต้นฉบับและคำแปลแบบวางคู่กัน ทำให้ตรวจสอบและแก้ไขการแปลผิดหรือแปลตกหล่นได้ง่ายขึ้น
修正後:Yaraku แปลภาษา แสดงต้นฉบับและคำแปลเคียงข้างกัน ทำให้ตรวจสอบและแก้ไขการแปลผิดหรือการแปลตกหล่นได้ง่ายขึ้น
ポイント:แบบวางคู่กัน は「二つのものを並べて置く」という直訳的な印象があります。เคียงข้างกัน は、コンテンツを横並びで表示する表現としてより自然です。また、修正後は「omissions」を การแปลตกหล่น としてより明確にしています。
4. ヤラク翻訳でカスタムプロンプトを有効に使う方法
ヤラク翻訳上で生成AIエンジンを使用している際、カスタムプロンプト機能を活用できます。読み手、トーン、丁寧さ、句読点の方針、製品名の扱いなど、文書全体に適用するルールを指定する機能です。
タイ語の場合、ここまでご紹介してきた下記の点をプロンプトに含めることで初稿の品質をあげられると考えられます。
- スペースの使い方を指定する(例:原文のスペースを機械的に引き継がない)
- 疑問符を使うかどうかを指定する
- 「ウェブサイトとしてより自然な表現を優先する」などの追加指示を与える
プロンプトを活用する際に重要なのは、長く詳細に書き込むことではなく、訳文を実用的にするための適格な判断を指示として組み込むことです。
5. AIを活用して一貫したタイ語ローカライズを実現する流れ

1. 翻訳前
1-a: 用語集の作成:製品名、機能名、役割名、繰り返し登場する語彙を登録します。
1-b: スタイルの定義:読み手、トーン、丁寧さ、句読点、UI表現などの方針を定めます。生成AI時代では、事前のディレクションがこれまで以上に重要です。指示が具体的であれば、ポストエディットやネイティブチェックなど、訳出後の作業に取り掛かる以前のAIの訳出品質をより細かくコントロールできます。
2. 翻訳
適切な参考情報とともに翻訳を依頼:原文に加えて、ブリーフ(ブランドアイデンティティなど、上位方針を定めるドキュメント)、スタイルガイド、用語集、関連する既存訳を提供し、カスタムプロンプトを活用して翻訳を開始します。
3.レビュー:これまで活用してきた資料や文脈情報を再度参照し、レビューを実行します。
4. 必要に応じてポストエディット:適切なスキルを持つレビュー担当者が、意味、用語、文章の流れ、製品固有のスタイルなどをチェックします。
5. 承認済みの修正をワークフローに戻す:検証済みの用語やフレーズを共有リソースへ追加し、次のページやリリースで同じ問題が再発しないようにします。
6. ヤラク翻訳ではこのワークフローを手軽に実現可能
ヤラク翻訳には生成AIエンジンが複数搭載されており、一度カスタムプロンプトを作ればその後手軽な操作で何度も活用することができます。また自動翻訳とポストエディット、レビュー、プロセス改善を一つのワークスペースで行えます。ぜひ一度お試しください。
ただ、AIに与える情報をどう選別するのか、どう表現するのかを決めるのもまた難しいです。承認済みの修正をワークフローに戻すプロセスでも、何を戻したら今後の翻訳プロセスが効率化できるのか、考えるためのリソースを準備するのが厳しい会社もあるはずです。八楽の翻訳チームは、企業が保有する原文と訳文をもとに、翻訳の土台づくりを支援できます。
私たちのチームには、本記事で紹介したようなウェブサイト翻訳の実務経験があります。ネイティブフィードバックを用語、スタイルルール、フレーズ、カスタムプロンプトへどのように反映すればよいかわからない場合は、ぜひ一度ご相談ください。AIの訳出をより一貫させ、ポストエディットを効率化するための翻訳データ構築をサポートします。
7. まとめ:タイ語ローカライズを継続的に管理する
実際にウェブサイトをタイ語へ翻訳してみると、品質を保つための大切な要素が細かい部分にたくさん隠れていることがわかりました。原文に引っ張られたスペース、選択したUIスタイルに合わない疑問符、直訳的な機能名などによって、意味は通じても「どこか不自然」なテキストになります。
生成AIを使うとすばやく初稿を作成できますが、訳出をあらかじめコントロールすることが大切です。まず用語とスタイルを定義し、その判断をカスタムプロンプトに反映します。そのうえで結果を検証すれば、一つひとつの承認済み修正を、次の翻訳品質の向上につなげられます。
生成AIの翻訳を、自社の用語やスタイルに合わせてコントロールしませんか?
ヤラク翻訳をお試しいただくか、ウェブサイト翻訳についてヤラクの翻訳チームへご相談ください。
出典
タイ王立学士院「タイ語のスペースに関する規則」:https://www.orst.go.th/iwfm_modal.asp?i=3529352MTG5813223326234222622&m=n
タイ王立学士院「疑問符に関する規則」:https://www.orst.go.th/iwfm_modal.asp?i=;82;642MTG5813223326234222622&m=n
ヤラク翻訳 Ver.6アップデート(プロンプトによるスタイル指定):https://www.yaraku.com/news/update_202607/