とても便利な機械翻訳ですが、デメリットとして、セキュリティ面のリスクや専門用語の誤訳、文章の正確性などの課題はまだまだ多いのが現状です。これらの問題を把握せずに機械翻訳を使用すると、重要な情報漏洩や誤解を招く翻訳結果につながり、ビジネスに深刻な影響を及ぼす可能性もあります。
本記事では、機械翻訳の基本的な仕組みと主要ツールの特徴、機械翻訳のメリット・デメリットを詳しく解説します。
機械翻訳の基本的な仕組み
機械翻訳は、私たちの日常生活やビジネスシーンで頻繁に利用されるようになりました。普段何気なく使用している機械翻訳ですが、その便利さの裏側にある仕組みは、意外と知られていません。機械翻訳でのメリットを考える前に、まずは機械翻訳がどのような仕組みやプロセスで翻訳を行っているのか、機械翻訳の基本的な仕組みを解説します。
機械翻訳の種類
機械翻訳の技術の中核には、「ニューラルネットワーク」と「ディープラーニング」があり、これらにより高度な言語理解と生成が可能になっています。
機械翻訳の仕組み
機械翻訳の仕組みは、主に3つのアプローチに分類できます。
①ルールベース型:言語の文法規則や単語の対応関係を人間が事前にプログラムに組み込む方式で、次の統計的翻訳より翻訳精度が劣っている(*)とされています。
*参考:英和相互訳学習支援を指向したルールベース翻訳プロセスの外在化による統語規則の違いの顕在化
②統計ベース型:異なる2つの言語の文章について大量の対訳データを統計的に分析し(*)、最も確率の高い訳を選択する方式です。
*参考:統計的機械翻訳
③ニューラルネットワーク型:人間の脳の仕組みを模倣した人工神経回路を用いて、入力された文章の意味を理解し、別の言語で表現する方式です。原言語の入力単語列を順次読み込んで「符号化」し隠れベクトルに書き込んでいくエンコーダ(encoder)と、読込みが終了してから目的言語の出力単語列に順次「復号」して生成していくデコーダ(decoder)によって構成されており(*)、現在の最先端の機械翻訳はこの方式を採用しています。
*参考:ニューラル機械翻訳の進展─系列変換モデルの進化とその応用─
ニューラルネットワーク型の中でも、特に注目されているのがディープラーニングを活用した手法です。ディープラーニングは、ニューラルネットワークを使用して、より深い層で複雑な特徴を学習する技術です。ディープラーニングを用いた機械翻訳は、文脈や状況、話者の関係性を考慮し、最も適切な英語表現を選択できます。これは、大量の対訳データと実際の使用例を学習することで、言葉の持つ微妙なニュアンスや文化的背景までも理解しようとしているからです。
例えば、 “I love you” を英語→日本語に翻訳する場合、文脈や文化的な要素も考慮して「愛しています」や「好きです」など、状況に応じた適切な訳を選択します。
他にも、日本語独特のあいさつの「おつかれ様です」は、
仕事を終えた人に対して: “Thank you for your hard work”(ご苦労さまでした)
退社する時のあいさつ:”See you tomorrow”(また明日!)
など、機械翻訳はますます精度が向上し、日常のコミュニケーションツールとして重要な役割を果たすようになっています。ただし、これらはまだ完璧ではないため、特に専門用語や極めて文脈に依存する表現の翻訳には課題が残っています。
機械翻訳の主なメリット
機械翻訳の主なメリットは以下の3点です。
①クオリティが担保出来る:機械翻訳は、一定のルールに従って翻訳を行うため、翻訳される文文章のクオリティが担保できます。翻訳担当者のスキルに依存せず、安定した翻訳を行えます。
②翻訳のスピードが速い:人間の翻訳者と比べて、機械翻訳は瞬時に結果を出力できます。例えば、数百ページの文書でも数分で翻訳が完了します。
③コストを削減出来る:Google翻訳やMicrosoft Translatorなどの無料サービスがあり、24時間365日いつでも利用可能です。
ただし、機械翻訳にも欠点があります。例えば、文脈や文化的なニュアンスの理解が不十分な場合があり、特に技術用の文書など専門分野の翻訳は人間の翻訳者の方が優れています。
そのため、重要な文書や微妙な表現が求められる場合は、機械翻訳の結果を人間が確認・編集する後編集(ポストエディット)が必須となります。
機械翻訳の主なデメリット3点
ここまで、機械翻訳の仕組みやメリットについて述べました。非常に便利なツールである反面、セキュリティリスクや専門用語の誤訳といったデメリットも存在します。主なデメリットを3点挙げます。
1. データの二次利用によるセキュリティリスク
データの二次利用によるセキュリティリスクは、機械翻訳サービスを利用する際に最も重要な懸念事項です。特に無料の機械翻訳サービスでは、ユーザーが入力した文章データを、学習に利用している可能性があり、これは大きな問題を引き起こすかもしれません。
翻訳のために入力されたテキストがAIモデルの改善や他の目的で再利用され、個人情報の漏洩、機密情報の流出、知的財産の保護の問題、さらには法的問題などのリスクが生じます。
過去には、無料翻訳ツール「iloveTranslation」で重大な情報漏洩事故が起きました。ユーザーが翻訳のために入力した内容が、意図せずインターネット上に公開されてしまったのです。漏洩した情報には、政府や金融機関の機密文書、弁護士と依頼人のやりとりなど、非常に機密性の高い内容も含まれていました。
この事故の主な原因は、翻訳サイト側のセキュリティ設定の不備です。サイトには「翻訳サービス改善のため、サーバーに検索結果を保存する」という説明があり、これに関連するチェックボックスがデフォルトでオンになっていました。ユーザーがこのチェックを外さずに翻訳すると、その内容が保存され、検索エンジンを通じて誰でも閲覧できる状態になっていたのです。
参照元:翻訳サイト経由で情報漏洩、「利用禁止」だけでは解決しない:日経クロステック
このようなリスクを回避するために、特にビジネスでの使用では、セキュリティが保証された機械翻訳サービスが必要不可欠です。セキュリティが保証されたサービスでは、データの二次利用に関する明確な方針、データの暗号化、厳密なアクセス制御、明確なデータ削除ポリシー、関連法規制へのコンプライアンス、そして独立した第三者機関による定期的な安全性の監査などが記載されています。
2. 専門用語や業界特有の表現は課題
機械翻訳の技術は近年急速に進歩していますが、専門用語や業界特有の表現の翻訳に関しては依然として課題が残っています。一般的な機械翻訳サービスは、日常会話や一般的な文書の翻訳には優れた性能を発揮しますが、特定の分野や業界に特化した内容の翻訳では限界があります。
例えば、医療分野での翻訳を考えてみましょう。「腹腔鏡下胆嚢摘出術」という専門用語をそのまま無料の機械翻訳ツールに入力すると、「laparoscopic cholecystectomy」という正確な英訳ではなく、「abdominal endoscopic gallbladder removal」のような一般的な説明に近い訳が出力されてしまう可能性があります。これは医学的に正確とは言えず、専門家間のコミュニケーションでは問題になる可能性があります。
主要な機械翻訳サービスにも、それぞれ得意とするジャンルがあります。
・Google翻訳:一般的な日常会話や文章、多言語対応が強み
・Microsoft Translator:ビジネス文書や技術文書の翻訳、Office製品との連携が強み
・Papago:アジア言語間の翻訳、特に韓国語と他言語間の翻訳に強み
ただし、どの翻訳エンジンも完璧ではなく、特定のジャンルでは誤った翻訳を行ってしまうリスクを抱えている可能性があります。
そのため、上記のような専門用語はフレーズ集などを活用し、表現を適切な訳にする必要があります。合わせて、機械翻訳と人による後編集(ポストエディット)を組み合わせるハイブリッドアプローチも効果的です。
つい先日も、米トランプ前大統領の2度目の暗殺未遂事件に関するハリス氏がXに投稿した「I am glad he is safe. Violence has no place in America.」の文言が、ニュース番組で「彼が無事でよかった。アメリカに暴力は存在しない」と訳され、内容の誤りを指摘する声がSNS上であがりました。(正確には、「アメリカでは暴力は許されない/暴力が入り込む余地はない」などの訳が正しいとされています)
弊社エバンジェリストの山田優氏はこの件に関して、Abema PRIMEに出演し、「翻訳には、何を伝えたいかの「命題」と、どう伝えたいかの「モダリティー」の2要素が必要だ。状況や経緯をAIに理解させていないと、意味は合っていてもニュアンスが違うなど、AIの“誤訳”が生まれることもある。」と見解を述べています。
また、上記のような誤訳を防ぐために「個々の誤訳に対して、NG表現をリスト化して、1対1で対応させることは可能だ。ある程度は統計的に処理しても、最後で個別に置き換えることができる。できない場合には、発信者が確認する責任を取るところに落ち着いてくるだろう」とも述べています。
出典元:進化する機械翻訳でも“誤訳”なぜ起こる?発展途上のAI×人間が出来ることは?専門家が解説(ABEMA TIMES)(Yahoo!ニュース)
3. 正確性に欠ける
今まで解説してきた通り、機械翻訳の技術は進歩していますが、ビジネス文書の翻訳では完璧な結果を得るのは困難です。特に外部向けの文書では、高い正確性が求められるため、機械翻訳だけでなく、人間によるダブルチェックと後編集(ポストエディット)が必要不可欠です。
「ヤラク翻訳」で機械翻訳のデメリットを解消
ここまで解説してきた通り、一般的な機械翻訳ツールにはいくつかのデメリットがありますが、これらを解決するのが機械翻訳プラットフォーム「ヤラク翻訳」です。
ただし、人間によるチェックとポストエディットは時間と労力がかかります。そこで、上記の課題を解決するため、ヤラク翻訳が開発されました。ヤラク翻訳は、ユーザーが登録する「フレーズ集」と「用語集」をベースに自動翻訳されます。そして、その自動翻訳を人が編集することで、さらにフレーズ集や用語集が登録され、次の自動翻訳に活用されます。使えば使うほど、ユーザーごとに学習していく新しい機械翻訳プラットフォームです。
データの二次利用なしでセキュリティも万全

ヤラク翻訳では、データセキュリティを最優先事項として扱っています。弊社が利用する翻訳エンジンは、すべて個別契約に基づいており、データの二次利用のリスクを完全に排除しています。
加えて、各顧客のデータは独立して管理されるため、他のユーザーによる不正アクセスを防ぎます。さらに、パスワードなどの機密情報はデータベース内で強力な暗号化が施されており、高いセキュリティ対策を実施しています。
また、弊社は情報セキュリティマネジメントシステムの国際規格であるISO27001認証を取得しています。ヤラク翻訳は技術的側面だけでなく、組織的な取り組みを通じて、顧客データの保護と情報セキュリティの確保に万全の体制を整えています。
高精度な翻訳エンジンで専門用語の翻訳にも対応可
ヤラク翻訳は、特許、IRなど各専門分野の翻訳エンジンの他にも、カスタマイズ可能な用語集・フレーズ集の機能を備えています。ユーザーの翻訳スタイルに応じて用語集・フレーズ集が自動的に学習されていくので、使えば使うほど翻訳の精度が上がります。一度設定すれば、次回以降は自動的に学習済みの用語が反映されていくため、作業効率もアップします。また、それでも難解な部分がある場合は、部分的に外部の翻訳会社に外注することも可能です。
機械翻訳と人のハイブリッド翻訳で修正作業を効率化
ヤラク翻訳は、翻訳する前後の文を同時に表示出来るので、簡単に前後文を比較して、編集が可能です。さらに、チェックアシスタント機能が修正すべき箇所を自動的にハイライトし、色分けで表示してくれるため、英語に不安がある人でも簡単に誤りを見つけられます。
翻訳の実務経験に関わらず、誰もが効率的に高品質な翻訳を行えるようにサポートしています。AIの精度と人間の判断力を組み合わせることで、翻訳プロセス全体の質と効率を大幅に向上させています。
まとめ
機械翻訳は、高速かつ低コストで翻訳が可能な非常に便利なツールです。しかし、セキュリティリスクや専門用語の誤訳、正確性の課題など、ビジネス利用において無視できないデメリットも存在します。特に、無料サービスの多くはデータの二次利用や情報漏洩のリスクを抱えており、重要な文書を翻訳する際には注意が必要です。
こうした課題を解決する手段として、「ヤラク翻訳」は、データの二次利用を一切行わず、厳格なセキュリティ体制を整えた翻訳環境を提供します。さらに、専門用語や業界特有の表現にも対応可能で、用語集・フレーズ集を活用した学習型の翻訳機能により、使うほど精度が向上します。また、機械翻訳と人による後編集を組み合わせることで、高品質かつ効率的な翻訳作業が可能になります。
ビジネスにおける安全性と正確性を確保するためにも、機械翻訳のメリットとデメリットを理解した上で、自社のニーズに合った翻訳ツールを選択することが重要です。ヤラク翻訳は、その最適な選択肢のひとつとなるでしょう。
この記事の執筆者:Yaraku ライティングチーム
翻訳者や自動翻訳研究者、マーケターなどの多種多様な専門分野を持つライターで構成されています。各自の得意分野を「翻訳」のテーマの中に混ぜ合わせ、有益な情報発信に努めています。
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