グローバル化が進む中、海外進出や多言語化のニーズが高まり、社内マニュアルの翻訳は企業の大きな課題の一つとなっています。特に海外に支部や工場を持ち、日本国内のノウハウや手順を伝える場合、正確な置き換えが必要になります。
本記事ではマニュアルを翻訳する際に気を付けるべきポイントと、翻訳の品質を保ちつつコスト・時間を節約する方法をお伝えします。
社内マニュアルを翻訳する時の3つの注意点
マニュアル翻訳は、単に言葉を置き換えるだけでなく、読み手にわかりやすく、正確に情報を伝えることが重要です。さらに、翻訳対象となる地域の文化や習慣、法規制にも配慮する必要があります。
以下では、マニュアル翻訳を成功させるために特に注意すべき3つのポイントと、具体的な対策をご紹介します。
1. 専門用語の適切な翻訳
マニュアルには、製品やサービスに特有の専門用語が多く含まれています。これらの専門用語を誤訳すると、誤解が生じたり、業務に支障が発生する場合があります。
対策として、社内で用語集を作成することで、用語の統一を図り共有することで、誤訳を防ぐことができます。
例えば、「コピーをする」を「copy」と訳す。一見問題なさそうですが、英語の「copy」は日本語の「コピー」だけではなく複製・模倣といった様々な意味を持つため、意図が正確に伝わらくなってしまう可能性があります。そのため、状況に応じて適切な表現・用語を洗濯する必要があります。
2. ローカライズ(文化的背景への配慮)
単に言葉を翻訳するだけでなく、対象地域の文化や習慣に合わせた表現にすることも重要です。例えば、日本では問題ない表現でも、別の国では差別的な表現と捉えられる場合があるため、そのような表現は避ける必要があります。単に言葉を翻訳するだけでなく、翻訳対象となる地域の文化や習慣、法規制に配慮する必要があります。
(※ローカライズについてに詳細は、こちらを参照ください)
3. セキュリティ
マニュアル翻訳を行う際は、情報セキュリティ対策も重要です。社内マニュアルには、企業の秘密情報が含まれている場合があります。特に、無料の翻訳ツールを使用する場合は、データの漏洩リスクに注意する必要があります。社内のメールなどを無料翻訳ツールで翻訳をしたら、情報が漏れていることが発覚したというニュースもありました[2]。自分たちで翻訳ツールを使い翻訳作業をする場合は、プライバシーポリシーなどを確認し、データ保護の面で信頼できる翻訳ツールサービスを選ぶことが重要です。
上記の3つのことは、翻訳会社に依頼すると遵守されますが、一方で以下のようなデメリットもあります。
人手翻訳は正確だが時間・コストがかかる
人手翻訳で依頼する最大のメリットは、高精度と専門性の高さにあります。専門知識を持つ翻訳者が、適切な用語を用いて、原文のニュアンスを忠実に再現しながら、読みやすく自然な翻訳文を作成してくれます。
しかし、高品質な翻訳には時間とコストという2つの大きな課題がつきものです。例えば、日→英翻訳でPDF10ページ文(約10,000文字)を依頼した場合…
- A社の場合:200,000円 (納期:1週間程度)
- B社の場合:150,000円 (納期:1.5週間程度)
※納期の他にも、お見積りで数日かかる場合があります。
上記の他にも最低受注料金があったり、納期+お見積りがかかる場合があります。たしかに人手翻訳は正確で期待する翻訳を得られますが、コストや時間がかかります。
では、正確さやセキュリティ面を担保しつつ、コスト・時間をかけない方法はないでのでしょうか。
自動翻訳+人手翻訳のハイブリッドで効率化
(出典:自動翻訳大全[1])
近年、AI技術の発展により、自動翻訳ツールの精度が飛躍的に向上しています。特に、自動翻訳はマニュアルやビジネス文書といった、「正確に・わかりやすく」文法的な正しさを意識され作られている文書、いわゆる『シンプルでロジカルな文』の翻訳を得意とします。
また、ビジネス文書ではパターン化された表現や文書がよく使われ、自動翻訳ではパターン化された文書ほど、正確な翻訳がでやすくなります。
自動翻訳を採用するメリットは、圧倒的に時間とコストを削減できることです。
ポストエディットで翻訳品質を向上
自動翻訳は、翻訳作業を効率化する強力なツールですが、翻訳結果をそのまま使用することはできません。 必ず人の手による修正が必要です。
翻訳の質を大きく左右するのが、ポストエディットですです。
- 翻訳後の『ポストエディット』:翻訳結果を磨き上げ、高品質な翻訳を実現
自動翻訳後の文書を修正・校正する「ポストエディット」は、翻訳の質を向上させるために重要です。(詳細はAAMTが発行する『機械翻訳ポストエディットガイドライン』を参照[3])。具体的には、以下の作業を行います。
- 自動翻訳による誤訳や不自然な表現の修正
- 専門用語が正しく翻訳されているかの確認
- 翻訳文と原文を比較し、文脈やニュアンスの調整
こうしてマニュアル翻訳においても、自動翻訳と人手翻訳を組み合わせることで、翻訳の効率化と品質向上を図ることが可能になりつつあります。
(ポストエディットについての詳細はこちらを参照ください。)
一般的な自動翻訳ツールの落とし穴
自動翻訳前後の手作業による編集の重要性について述べました。しかしGoogle翻訳など、一般的な翻訳ツール上での編集作業においても課題があります。
訳抜けや誤訳の発見が困難
自動翻訳ツールは、文脈や専門用語を十分に理解できない際、訳抜けや誤訳が発生することがあります。しかし、一般的な翻訳ツールには、修正箇所を簡単に特定したり、一括で修正したりする機能が備わっていないため、探すのに時間がかかり修正作業に多くの時間と労力を必要とします。
用語やフレーズの登録機能がない
一般的な翻訳ツールには、用語集・フレーズ登録機能が備わっていない場合が多いです。
そのような場合、同じ内容の文章を何度も翻訳する場合、毎回同じように訳すために手動で修正が必要であるため、翻訳作業の手間と時間が増えてしまいます。
部分編集機能がない
部分編集機能とは、翻訳文全体ではなく、特定の部分のみを編集できる機能です。この機能がない翻訳ツールでは、誤訳や訳抜けを発見した場合、翻訳文全体を修正する必要があり、作業効率が低下します。
一般的な無料翻訳ツールの場合、上記のような不便さがあります。自動翻訳は便利な一方で、人の手を加えて編集するのに不便です。
逆に、無料翻訳のスピーディーさと人の手による正確さをミックスすると、これらのような問題が解決できます。
マニュアルの翻訳を効率化するAI自動翻訳「ヤラク翻訳」
従来の自動翻訳ツールでは、翻訳後の修正作業に多くの時間と労力が必要でした。
そんな課題を解決するのが、AI自動翻訳プラットフォーム「ヤラク翻訳」です。AIによる翻訳のスピーディーさと人の手による正確さをミックスさせ、さらにAIによる自動翻訳と高度な編集支援機能を備え、マニュアル翻訳を効率化します。
マニュアルの人手翻訳の課題を解決できる3つの強み
ヤラク翻訳は自動翻訳でできた翻訳文を、ポストエディットによって高品質に整えやすい仕組みがあります。プロの翻訳者だけでなく、翻訳作業に慣れていないビジネスパーソンでも簡単に使いこなせます。
- チェックアシスタント機能
- 用語集・フレーズ集の活用
- 部分的な翻訳会社への発注でさらに効率化
従来の自動翻訳ツールでは、翻訳後の文章を確認するために別画面に移動する必要がありました。しかし、ヤラク翻訳なら翻訳前後の文章を一つの画面で横並びに表示できるので、比較しながら編集ができます。見比べながら修正することで、誤訳や不自然な表現を見つけやすくなり、編集作業の効率が大幅に向上します。
①チェックアシスタント機能
ヤラク翻訳にはチェックアシスタント機能が搭載されており、英語が苦手な方でも編集が可能に。自動翻訳後、どこをどう編集して良いかわからない方も、AIが自動翻訳後の問題箇所をハイライトし、修正箇所を可視化することで誰でも修正がしやすくなります。
②用語集・フレーズ集の活用
ヤラク翻訳では、特定の用語やフレーズを登録して翻訳精度を向上させる機能があります。専門性のある文章では、一般的な自動翻訳では適切な翻訳が難しいことがありますが、ヤラク翻訳では事前に指定した翻訳を自動で適用することができます。これにより、専門用語や固有名詞に対する正確な翻訳が可能になります。
③部分的な翻訳会社への発注でさらに効率化
自分で編集するのも限界がありますよね。そんな時は、翻訳会社に部分的に発注することで、さらに効率化を図ることができます。わざわざ翻訳会社を検索する必要がなく、翻訳画面からスムーズに依頼できます。また、翻訳会社から納品された翻訳データをヤラク翻訳に学習させることで、次回以降の翻訳を効率化にもつながります。
ヤラク翻訳で翻訳作業工数90%削減!
サキコーポレーション様は、1994年の創業以来、高品質な自動検査装置で、世界最先端のモノづくりに貢献しています。
そんな中、グローバル展開に伴い、社内文書や開発ドキュメント類の多言語化が課題となっていました。従来は無料翻訳ツールや翻訳会社に依頼していましたが、セキュリティ面やコスト、作業量などの課題がありました。
ヤラク翻訳導入後、マニュアルなどの社内文書の翻訳や、社内でのスタッフ同士の情報共有に大きく貢献し、翻訳作業工数が90%以上削減されました。
翻訳作業を90%削減した詳しい内容は、以下からご覧ください。
「グローバル企業の代表としての成功に向け、ヤラク翻訳を活用」
まとめ
マニュアルの翻訳は企業にとって、グローバルなビジネス展開において不可欠です。正確な情報伝達は、ビジネスの成功に直結します。AI技術の進化により、翻訳作業の効率化が進んでいる中、自動翻訳ツールの活用により、効率的かつ品質の高い翻訳が可能となりますが、常に人手での編集や修正が欠かせません。
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参考文献
[1] 坂西優?山田優 (2020). 『自動翻訳大全』. アルク.
[2] 日経新聞 (2017). 「翻訳サイト経由で情報漏洩、『利用禁止』だけでは解決しない」. 2025-08-09アクセス. https://xtech.nikkei.com/it/atcl/column/14/507007/030300004/
[3] Asia-Pacific Association for Machine Translation (2024). 『機械翻訳ポストエディットガイドライン』. 2025-08-09アクセス. https://aamt.info/act/posteditguideline
記事の監修者について
氏名
山田 優(Masaru Yamada)
現職
立教大学 異文化コミュニケーション学部/研究科 教授
学位
博士(異文化コミュニケーション研究科・立教大学大学院/2012年3月)
修士(TESOL/言語学・ウエストバージニア大学/1999年5月)
経歴
フォードモーター社 社内通訳翻訳者
IT系ローカリゼーション プロジェクトマネジャー
産業翻訳者・コンサルタントとして独立
関西大学 外国語学部 教授(2017–2021)
立教大学 教授(2021年4月–現在)
研究分野
Empirical Translation Process Research(Empirical TPR)
翻訳テクノロジー論(CATツール・MTPE・LLMs・GenAI)
機械翻訳の外国語教育応用(TILT/MTILT)
役職・社会貢献
株式会社翻訳ラボ 代表
八楽株式会社 チーフ・エバンジェリスト
オンラインサロン「翻訳カフェ」主宰
日本通訳翻訳学会(JAITS)理事 歴任
一般社団法人アジア太平洋機械翻訳協会(AAMT)理事歴任
主な著書
『ChatGPT英語学習術:新AI時代の超独学スキルブック』(単著/アルク)
『ChatGPT翻訳術:新AI時代の超英語スキルブック』(単著/アルク)
『英語教育と機械翻訳』(監修/金星堂)
『自動翻訳大全』(共著/三才ブックス)『Metalanguages for Dissecting Translation Processes』(共編/Routledge)