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公開日: 2025/05/14 | 更新日: 2025/08/21

ポストエディットの2つの種類 – やり方と注意点について

自動翻訳の精度は日に日に向上しています。またLLM(大規模言語モデル)の登場により、事前に翻訳文をカスタマイズすることもできるようになりました。技術は日に日に便利さを増しますが、ツールを使った後に人の手で編集・修正を行うポストエディット(後編集)は依然として重要なプロセスです。

機械やAIが処理した訳文には、誤訳や訳抜けに加え、ニュアンスが反映されていない文や、文化背景を考慮できていない表現が残る場合もあります。

そのため人の目でのチェックが必要になるのですが、時間とコストの削減、生産性向上のために自動翻訳を導入したものの、ポストエディットで多くの時間がかかってしまっては元も子もありません。自動翻訳のクセを把握し、ポストエディットを行う上でのポイントを押さえておくことで翻訳作業をより効率よく行えるようになります。本記事ではポストエディットとは何か、行う際のコツや注意点などを紹介します。

ポストエディットは正確性・流暢性の観点から

ポストエディットとは、自動翻訳で生成された訳文を人間が修正・改善する作業を指します。

翻訳の品質にはAccuracy(正確性)、clarity(理解しやすさ)、style(スタイル)の3つがあります[1]。

そしてポストエディットにおいて確認すべき項目は「正確性」(Accuracy)と「流暢性」(Fluency)の2つの観点に分けられます。主語や時制が欠けていないか、単数形・複数形に誤りがないか、異なる意味になっていないか、といったことを見るのが「正確性」です(「自動翻訳大全p. 122~135を参照」)[2]。

もう一方で求められているのは「流暢性」(Fluency)です。「流暢性」とは何なのか、イメージしにくいかと思います。例を挙げてみてみましょう。

例文:メールで返信してください。
Google翻訳の翻訳結果:Please reply by email.

「reply by email」は命令形。その前後にpleaseをつけた英文は、命令とまではいきませんが、少し強いニュアンスを持っていて、失礼な印象を与えてしまう可能性があります。

ビジネスシーンで使われる場合「Could you reply by email?」というようにCouldやWouldを使った言い方をする方が丁寧です。このように、日本語を単に英語に置き換えただけの文は、情報の正確性は満たしていても、ニュアンスの違いにより違和感を与えかねません。
このように適切な言い回しなのかどうか、どう伝えるかといった部分が「流暢さ」(Fluency)となります。

つまり、ポストエディットをする際、品質を確認する際には「原文の意味と合っているか(正確性)」と「適切な伝え方ができているか(流暢性)」 — 主にこの2つの観点から考えてみましょう。

フルポストエディット・ライトポストエディット

ポストエディットは、フル・ライトポストエディットの2種類に分けられます。

自動翻訳のポストエディットについて定められた国際標準規格ISO18587は、フルポストエディットを「人による翻訳によって得られる製品に匹敵する製品を制作するためのポストエディットのプロセス」、ライトポストエディットを「人による翻訳によって得られる製品に匹敵する製品を制作しようとすることなしに、単に理解可能なテキストを得るためのポストエディットのプロセス」と定めています[3]。

つまり、フルポストエディットには、正しい表現や自然な言い回しになるまで徹底した修正が求められます。それに対し、ライトポストエディットは文章として多少読みづらくても意味が通じればよいという程度までの修正です。言い換えると、フルポストエディットには正確性と流暢性の両方、ライトポストエディットは正確性の修正が求められているということです。

フル・ライトの使い分け例

以上の定義を踏まえると、契約書や監査報告書など、社外向けに使用される文書の場合はフルポストエディットが適切でしょう。社内資料のようにスピーディーな情報共有を目的とした文書や、内容を大まかに伝える目的の文書では、ライトポストエディットで十分対応可能といったこともあるでしょう。翻訳を行う前に、必要とされているポストエディットのレベルを見極め、翻訳作業者が共通の認識を持つことが重要です。

自動翻訳とポストエディットを組み合わせるメリット

では、最初から人が翻訳を行うのではなく、あえて自動翻訳を利用し、その後人の手で編集するメリットは何なのでしょうか。

翻訳作業時間を短縮できる

自動翻訳は、人間の翻訳スピードをはるかにしのぐ速度で多くのテキストを翻訳できます。人が何時間もかけて行う作業を、自動翻訳は1分もかからずして終わらせることもあります。また、自動翻訳の精度が高ければ、ポストエディットの作業量が大幅に減る場合や、必要さえなくなる場合もあります。プレスリリースや新商品の発表など、スピードがビジネス成功の決定打になり得る文書では大いに活用できるでしょう。

コストを削減できる

機械やAIが翻訳作業の大部分を行い、人は誤訳やニュアンスのチェックのみを行う場合、人件費を大幅に削減することが可能となります。近年の自動翻訳は分野や文書によるとはいえ、ビジネスでも実用的なレベルまで精度が向上しています。目的や分野によってはポストエディットが必要でない場合もあります。

ポストエディットを行う上での注意点

自動翻訳とポストエディットを組み合わせることでのメリットを紹介しましたが、注意すべきこともあります。

ポストエディットが不要となる、もしくは手軽な修正で終えられるのは、自動翻訳の精度が高い場合に限られます。自動翻訳の精度は使用するエンジン、元の文の明確さなどに左右されます。また、自動翻訳ツールを活用して社内で言語資産を蓄積している場合は、その言語データの質や更新頻度によっても自動翻訳の精度は変動するでしょう。

さらに、文書の目的によってポストエディットの作業量も異なります。例えば、誤訳が大きなリスクにつながる医療関係や法的文書などの場合は、人手のチェックに時間とコストをかけるべきです。ポストエディットの本格的な導入についての詳細は、『機械翻訳ポストエディットガイドライン』[4]も参照ください。

ポストエディットのやり方・進め方

では実際にポストエディットを行ってみましょう。英語を話す取引相手を会食に誘うメールを書くと想定し、以下の文をヤラク翻訳上で翻訳にかけてみました。

正確性の確認

まずは、正確性を次の点から確認していきます。

  1. 固有名詞
    自動翻訳は固有名詞を正しく翻訳できないことがあります。
  2. 代名詞
    日本語では代名詞を省いて表現することが多いのに対し、英語では基本的に代名詞が必要であるため、日本語⇔英語の翻訳では代名詞に注意が必要です。
  3. 数字
    数字も自動翻訳が間違いやすい要素です。アラビア数字だけでなく、漢数字やmillion、billionなども正しく訳されているか注意して見ておきましょう。
  4. 訳抜け
    パッと見て訳文が元の文に対して短く感じた場合は、どこかのフレーズが抜けてしまっていないか確認しましょう。

画像で示したヤラク翻訳上でのデモ翻訳は、大阪の地名「淀屋橋(よどやばし)」を「Yahashi」と訳しています。ここは修正が必要ですね。

(修正完了!)

次に代名詞については、「弊社製品のアップデートについて…」にあたる部分のみが「We」、他は「I」で訳されています。会社の製品のことは「We」で話すのが一般的ではありますが、この状況で「We」を使ってしまうと「私たちからアップデートについて説明します」と言っていることになり、会食に出向くのが二人以上であるように読めてしまいます。ここは「I」に修正しておきましょう。

数字が登場するのは日付部分ですが、「April 25th」と正しく訳されています。また、長さも大きくは変わらず、じっくり見てみても元の文の情報はすべて反映されていそうなので、訳抜けもなさそうです。

流暢性の確認

では、次に流暢性を見てみましょう。

最後の一文、「ジェームズさんのご都合はいかがでしょうか?」の「ジェームズさん」はメールの受け手のはずです。「Is it convenient for James-san?」でも通じないことはないですが、英語で相手を指すときには「you」を使うのが一般的です。「Is it convenient for you?(あなたにとっての都合は良いですか?)」または、もう少し曖昧さを残して相手の都合を聞くことができる「How does it sound to you?(どうでしょうか?)」あたりにするのが自然でしょう。

流暢性は、言語の構造や文化的背景などに大きく影響されるため、ある程度の英語力や英語話者の文化の理解も必要になります。流暢性まで含めた品質にこだわりたい場合は、ネイティブ話者やプロにポストエディットを依頼するのも一つの手です。

ヤラク翻訳の「チェックアシスタント」機能

ヤラク翻訳には自動翻訳が間違いやすい項目をハイライトする機能「チェックアシスタント」が搭載されています。固有名詞や代名詞、数字やスペルミスなどが自動でハイライト表示されます。さらに、並列ビューに切り替えると一文ごとにセグメントに分けられ、細かいチェックがしやすくなります。ぜひ活用してみてください。(ヤラク翻訳並列ビュー)

まとめ:ポストエディットを活用して生産性向上につなげる

ポストエディットは正確性・流暢性の2点から考えられることを説明し、ポストエディットにはライト・フルの2種類があることを実例とともに紹介しました。

自動翻訳とポストエディットを活用すると、翻訳者がイチから翻訳する場合に比べて、コストや時間の削減が期待できます。自動翻訳を導入済みでうまく運用したいと考えている方、また自動翻訳の導入を検討している方には、ポストエディットの活用をおすすめします。

進化型CATツール「ヤラク翻訳」はツール上で手軽にポストエディットを行える仕様になっています。チェックアシスタント機能を活用して、効率よく翻訳業務を行えます。

また、自動翻訳後の編集に時間が割けない方や、そもそも訳文の正誤がわかるか不安といった方もご安心ください。ヤラク翻訳上で、提携する大手翻訳会社にポストエディットの相見積もりおよび発注も行えます。

ツールを使いこなして、より高品質で、生産的で、心地良い翻訳プロセスを実現しましょう!

参考文献

[1] 山田 優(2010). 「機械翻訳+ポストエディットの実証研究:先行研究レビュー」. AAMTジャーナル No. 70. Retrieved on Aug 10, 2025: https://researchmap.jp/yamada_trans/published_papers/19176034

[2] 坂西優・山田優(2020)『自動翻訳大全』三才ブックス

[3] International Organization for Standardization(2017). ISO 18587:2017 Translation services — Post-editing of machine translation output — Requirements. ISO.

[4] AAMT (2025). 『機械翻訳ポストエディットガイドライン』一般社団法人アジア太平洋機械翻訳協会. Retrived on Aug 10, 2025: https://aamt.info/act/posteditguideline

 

記事の監修者について

氏名 
  山田 優(Masaru Yamada)

現職 
  立教大学 異文化コミュニケーション学部/研究科 教授

学位
  博士(異文化コミュニケーション研究科・立教大学大学院/2012年3月)
  修士(TESOL/言語学・ウエストバージニア大学/1999年5月)

経歴
  フォードモーター社 社内通訳翻訳者
  IT系ローカリゼーション プロジェクトマネジャー
  産業翻訳者・コンサルタントとして独立
  関西大学 外国語学部 教授(2017–2021)
  立教大学 教授(2021年4月–現在)

研究分野
  Empirical Translation Process Research(Empirical TPR)
  翻訳テクノロジー論(CATツール・MTPE・LLMs・GenAI)
  機械翻訳の外国語教育応用(TILT/MTILT)

役職・社会貢献
  株式会社翻訳ラボ 代表
  八楽株式会社 チーフ・エバンジェリスト
  オンラインサロン「翻訳カフェ」主宰
  日本通訳翻訳学会(JAITS)理事 歴任
  一般社団法人アジア太平洋機械翻訳協会(AAMT)理事歴任

主な著書
  『ChatGPT英語学習術:新AI時代の超独学スキルブック』(単著/アルク)
  『ChatGPT翻訳術:新AI時代の超英語スキルブック』(単著/アルク)
  『英語教育と機械翻訳』(監修/金星堂)
  『自動翻訳大全』(共著/三才ブックス)『Metalanguages for Dissecting Translation Processes』(共編/Routledge)