はじめに
近年、動画プラットフォームの普及やSNSでの動画配信が一般化したことで、世界中の動画コンテンツを手軽に視聴できるようになりました。
しかし、言語の壁はいまだに高く、興味のある動画であっても、外国語であれば内容を十分に理解できないこともあります。
また、自身が作成した動画を海外のユーザー向けに公開したいと考えても、翻訳や字幕の準備が大きなハードルになります。
そこで注目されているのが動画の翻訳です。
本記事では、初心者の方でも動画の翻訳をスムーズに行えるよう、基本的な仕組みから具体的なツールの選び方、翻訳の流れ、そして後編集(ポストエディット)の重要性まで、幅広く解説していきます。
動画翻訳とは
動画の翻訳は、映像コンテンツに含まれる音声や字幕を他言語に訳し、その内容を視聴者に伝わりやすい形へと変換することです。具体的には以下のような形態が考えられます。
- 字幕の翻訳
元の音声とは別に、画面下部などにテキストとして翻訳内容を表示する。YouTubeなどのプラットフォームでは自動字幕機能も用意されていますが、精度や言語対応の範囲はプラットフォームによって異なります。 - 音声吹き替えの翻訳
元の音声を丸ごと別の言語で録音し直す方法。エンタメ作品や教材など、映像と音声を同期させながら自然な視聴体験を提供したい場合に使われます。視聴者の負担が小さい一方で、準備のコストや手間が大きいのが特徴です。 - スクリプト翻訳
動画のセリフやナレーションを書き起こし、それをドキュメントとして他言語に翻訳する方法。インタビュー動画や学術セミナーなど、文字ベースでのアーカイブを残したい場合にも役立ちます。
このように、動画の翻訳には複数のアプローチがあります。単純に字幕を付ければ済む場合もあれば、ターゲット言語での発信力を高めるために音声吹き替えを用いる場合もあります。どのような方法を選ぶかは、目的・予算・求める品質によって異なります。
動画翻訳の主な方法
動画を翻訳する方法は、大きく2つに分かれます。
1.機械翻訳の利用
近年はAIの発展により、自動音声認識(ASR)や機械翻訳の精度が向上してきました。無料または低コストで利用できるサービスも増え、簡単な動画翻訳であれば機械翻訳ツールだけで完結するケースもあります。
- メリット
- 低コストまたは無料で始められる
- 翻訳スピードが速く、大量の動画コンテンツを短時間で処理できる
- ツールの操作が比較的シンプル
- デメリット
- 機械翻訳特有の誤訳や不自然な表現が残ることがある
- 専門用語やニュアンスの細かな部分で不正確な結果が出やすい
機械翻訳は、特に「ざっくりと内容を把握したい」「あまりコストをかけずに多言語に対応したい」といったニーズに適しています。一方で、公式発表動画や商用利用など高い品質が求められる場合は、後述する後編集(ポストエディット)や専門の翻訳者によるチェックが必要になるでしょう。
2.プロの翻訳者への依頼
専門の翻訳者や翻訳会社に動画翻訳を依頼する方法です。字幕翻訳に特化したプロフェッショナルも存在し、映像文脈に合った自然な翻訳を行ってもらえます。
- メリット
- 高品質で自然な翻訳が期待できる
- 各業界・分野の専門知識を持つ翻訳者に依頼できる場合もある
- 用語の統一や文化的ニュアンスの考慮まで含めた総合的な品質管理が可能
- デメリット
- 機械翻訳に比べてコストや納期がかかりやすい
- 翻訳者とのやり取りが必要で、プロセスに時間がかかることがある
ビジネス用途や公式発表、教材など、高品質を求められるコンテンツを扱う場合は、やはりプロの翻訳者や翻訳会社への依頼が安心です。近年はクラウドソーシングサイトやオンライン翻訳プラットフォームで、簡単に依頼できる環境も整っています。
3.ハイブリッドアプローチ
最初に機械翻訳ツールで大まかな字幕やスクリプトを生成し、その後人手によるチェック・修正を行う方法です。
機械翻訳のスピードと手動修正の品質を両立できるため、コスト・時間・品質のバランスがとれた手法として注目されています。
おすすめの動画翻訳ツール5選
ここでは、実際に動画翻訳でよく利用されるツールやサービスを5つ厳選して紹介します。機械翻訳機能を備えたものや編集機能に特化したものなど、さまざまな特徴がありますので、ご自身の目的に合わせて選んでみてください。
- YouTube機械翻訳機能
- YouTube
- 特徴:
- YouTube上で動画を公開すると、自動字幕生成機能が利用できる。
- その字幕を元に他言語翻訳する機能が提供されており、プラットフォーム内で完結できる。
- メリット:
- 無料で利用できる。
- 操作が比較的簡単。
- デメリット:
- 自動認識と機械翻訳の精度はコンテンツのジャンルや音声品質に左右される。
- 誤訳・不自然な表現が残る場合があるため、正式なビジネス用途や専門性の高い動画には不適切な場合がある、。
- Notta
- Notta公式サイト
- 特徴:
- 音声認識とテキスト変換に特化したクラウドサービス。
- 音声だけでなく動画ファイルをアップロードして文字起こしと翻訳を行える。
- メリット:
- アプリやブラウザから簡単に操作でき、UIがわかりやすい。
- 多言語対応で、作業結果をすぐに共有・エクスポート可能。
- デメリット:
- 大容量の動画を扱う際はアップロードに時間がかかる場合がある。
- 無料プランだと制限があり、長時間の動画翻訳には有料プランの利用が必要。
- Vrew
- Vrew公式サイト
- 特徴:
- AIを活用した字幕編集ソフト。自動文字起こし機能と、テキストを手軽に編集できるインターフェイスが特徴的。
- 翻訳自体もサポートしており、簡単な多言語字幕の作成が可能。
- メリット:
- 字幕の微調整や見た目の編集が直感的に行える。
- 機能がシンプルで、動画編集初心者でも扱いやすい。
- デメリット:
- 高度な翻訳精度を期待する場合は、別途ポストエディットが必要になる。
- 大規模ビジネス運用や特殊な専門用語の処理にはやや不向き。
- Amara
- Amara公式サイト
- 特徴:
- オンライン上で字幕を作成・編集・翻訳できるサービス。ユーザー同士で翻訳を手伝い合うコミュニティ機能もある。
- 非営利団体が運営しており、教育機関や個人クリエイターにも使いやすいフリーの仕組みが特徴。
- メリット:
- ブラウザ上ですべての作業が完結し、インストール不要。
- 複数人で協力しながら翻訳・字幕編集を進めやすい仕組みがある。
- デメリット:
- 機械翻訳での一括翻訳機能はやや限定的。
- コミュニティベースのため、プロ品質の字幕を作るには人力での編集が必須。
- サイトが日本語対応されていない。
動画翻訳ツールの選び方
目的に応じた選択
動画翻訳を行う理由は人それぞれです。趣味で海外の視聴者と交流したい場合と、企業のプロモーション動画を世界に向けて発信したい場合では、求められる品質や予算も大きく異なります。
- 個人利用・趣味レベル:YouTubeの機械翻訳機能やVrew、Nottaなど、比較的安価で簡単に利用できるサービスがおすすめです。スピードと手軽さを優先できます。
- ビジネス利用・公式発表レベル:クオリティ重視のため、有料の機械翻訳ツールやプロの翻訳者、あるいはハイブリッドアプローチの採用を検討するほうが安心です。最終的なネイティブチェックやポストエディットの手間とコストは必要ですが、誤訳による企業イメージ低下を防げます。
動画翻訳における後編集(ポストエディット)の重要性
ポストエディットとは
ポストエディットとは、機械翻訳によって生成された訳文を人間が編集・修正して最適化するプロセスを指します。とくに動画翻訳では、字幕や台本の自然さを維持したり、文脈や文化的背景を考慮したりなど、人間の判断が不可欠な要素が多いのが特徴です。
ポストエディットのメリット
- 品質向上
機械翻訳による誤訳や文法の不自然さを取り除き、全体として読みやすく理解しやすい内容に仕上げられます。 - 時間とコストの削減
全文を一から人力で翻訳するよりも、まず機械翻訳でベースを作るほうがスピードが速く、費用を抑えられます。
ポストエディットの具体的な手順
- 訳抜けや誤訳の確認
専門用語、固有名詞、数値や日付などは特に間違いやすいポイントです。 - 文法・語順の修正
機械翻訳は文法構造を誤って解析することがあるため、語順や情報の流れが不自然だと感じる場合は手動で調整しましょう。 - 文体の統一
丁寧語か砕けた表現か、ターゲット言語に合わせた文体を選び、全体的に統一しましょう。 - 文化的背景への配慮
直訳では伝わりにくい冗談や比喩表現などがある場合、対象読者に理解しやすい表現に置き換えましょう。
まとめ
動画の翻訳は、言語の壁を越えて情報や価値を世界中に届けるための、非常に有効な手段です。
近年はAI翻訳の進化により、手軽に多言語対応が可能になってきましたが、誤訳や不自然な表現といった課題も依然として残っています。
そこで重要になるのが「後編集(ポストエディット)」です。機械翻訳のスピードやコストメリットを活かしながら、人の手による調整で品質を高めることで、効率と成果の両立が可能になります。
本記事では、目的や予算、求める品質に応じて選べる翻訳手法として、
- 機械翻訳の活用
- プロ翻訳者への依頼
- 機械翻訳+人手修正のハイブリッド型
という3つのアプローチを紹介しました。
動画翻訳は、オンライン学習や企業プロモーション、エンタメなど、あらゆる分野での可能性を広げる力を持っています。今後さらに重要性が高まるこの分野で、自分に合った翻訳スタイルを見つけ、グローバルな情報発信を実現していきましょう。
お役立ち情報のご案内
本記事はお役に立ちましたか?記事ではお伝えし切れない自動翻訳に関わる情報を毎週メルマガでお伝えしています。ぜひメルマガ登録して最新情報をお受け取りください。
この記事の執筆者:Yaraku ライティングチーム
翻訳者や自動翻訳研究者、マーケターなどの多種多様な専門分野を持つライターで構成されています。各自の得意分野を「翻訳」のテーマの中に混ぜ合わせ、有益な情報発信に努めています。
よく読まれている記事