産業翻訳(さんぎょうほんやく)とは、工業・製造業、IT、医薬、金融、法律など、特定の専門分野において使用される文書を翻訳する業務を指します。
文芸作品や雑誌記事などの翻訳に比べ、より専門的な用語や分野固有の知識が必要とされるのが特徴です。翻訳の中でもビジネスの現場や工場などの産業領域で利用されることが多いため「産業翻訳」と呼ばれています。
産業翻訳はマニュアルや安全情報、契約書や規約文書、財務報告書など、ビジネスの重要資料が海外で使われるときには、正確な翻訳が求められます。
本記事では一般的な翻訳と産業翻訳の違い、産業翻訳の種類についてお伝えします。
他の翻訳分野との違い
産業翻訳と他の翻訳との最も大きな違いは、専門知識の有無と、精度に対する考え方の違いです。
たとえば文芸翻訳では、表現の美しさや文体の個性が重視される場合が多く、必ずしも一言一句を厳格に対応させる必要はありません。対して産業翻訳では、契約文書や取扱説明書などの法的・技術的な文書が多く、曖昧な訳は誤解を生んだり、重大な事故・トラブルにつながったりする可能性があります。
そのため訳語の正確さが第一に重視され、用語の選択にも厳密な基準が課されます。
さらに専門分野特有の規格・法律・ガイドラインに準拠した表記や用語統一も必要です。産業翻訳には「原文の意味を的確に伝える」ことに加え、「分野特有の形式(フォーマット)や記載要件を満たす」ことが重要視されます。
このように、専門知識と正確性が求められる点で、エンタメ系や文芸分野の翻訳とは大きく異なるのです。
産業翻訳の主な分野と対象文書
たとえば自動車、航空機、工作機械、化学プラントなど、製造業の分野では数多くの技術文書が作成されます。具体例としては以下のようなものがあります。
- 取扱説明書
- 製品仕様書(スペックシート)
- 設計図面に添付される解説文書
- 安全データシート(SDS: Safety Data Sheet)
- 技術報告書
これらは誤訳が直接的に事故や製品の不具合につながる恐れがあるため、高い精度と業界特有の用語知識が求められます。
また、工業系の文書には専門用語が多く登場し、かつ新製品や新技術が次々に生まれるため、訳出時には最新の技術トレンドを把握しておく必要があります。
海外に拠点を持っている企業の場合、翻訳文をその国の文化や言葉に合ったものにしなければならないケースもあります。言語的な置き換えをだけでなく、その国の文化的な背景も加味しながら正確な翻訳にすることが重要です。
IT・ソフトウェア分野
IT産業やソフトウェア業界では、新しいサービスやアプリケーションが次々と生み出されます。
関連するマニュアルや仕様書、ユーザーインターフェースの翻訳は、製品の海外展開に必須です。また、ユーザーの使いやすさに直結するUI/UX文言の翻訳は、企業の評判やユーザー満足度に影響を与えるため、単純な直訳だけでなく「自然で理解しやすい表現」にする工夫が必要です。
具体的な文書例としては、次のようなものが挙げられます。
- ソフトウェアのUI(メニューやボタンのラベル)
- エンドユーザー向けのマニュアル
- APIドキュメント
- ヘルプページ・チュートリアル
- ソフトウェアライセンス契約書
IT分野は変化が激しい業界のため、常に最新の用語や表現を調査しながら翻訳を行うことが大切です。
医薬・医療分野
医薬品や医療機器に関する文書は、業界独自の専門用語だけでなく、国際的な規制やガイドライン(たとえばFDAやEMAの基準など)に従った表記が求められます。医薬分野における代表的な翻訳対象文書は以下の通りです。
- 臨床試験報告書
- 添付文書(パッケージインサート)
- 市販後調査報告書
- 医療機器マニュアル
- 薬事申請関連資料
誤訳が患者の安全や治療効果に影響を与える可能性があるため、きわめて厳格なチェック体制が敷かれるのが特徴です。医学や薬学の知識、あるいは法規制に関する知識を持つ翻訳者、あるいは監督者が必要です。
3.4 法務・契約分野
企業間取引や国際取引の増加に伴い、契約書や規約を正確に翻訳するニーズは高まっています。契約文書においては、一言一句が契約当事者間の権利義務関係を規定する重要な意味を持つため、些細な訳し漏れや誤訳が大きな損害をもたらすこともあり得ます。代表的な翻訳文書としては以下が挙げられます。
- NDA(秘密保持契約)
- 売買契約書
- ライセンス契約書
- 利用規約
- 就業規則や社内コンプライアンス規定
法的専門用語の正確な把握に加え、それぞれの契約や規約の目的を踏まえた丁寧な訳出が重要となります。
3.5 金融・財務分野
金融・財務分野では、経済動向や投資資料、財務諸表などの翻訳需要があります。特に国際的にビジネスを展開する企業にとっては、決算書類や投資家向け情報(IR資料)を複数言語で提供することが求められるため、正確な翻訳が不可欠です。具体的には以下のような文書が対象となります。
- 財務諸表(貸借対照表、損益計算書など)
- 株主総会関連資料
- 投資説明会資料
- マーケット分析レポート
- 保険契約関連文書
数字や金融用語、規制上の表現に関する正確さが求められ、専門知識が欠かせない分野の一つです。
4. 産業翻訳に求められるスキル
前述したように、産業翻訳には各分野の知識と正確性が不可欠ですが、具体的には以下のようなスキルが求められます。
- 分野特有の用語知識
製造業やIT、医療、法務など、それぞれの分野特有の用語が多数存在します。これらを正確に把握し、適切な訳語を使い分けるスキルが必要です。
継続的に専門書や学会発表、業界ニュースに目を通して最新の知見を得ることが望まれます。 - 言語力とリサーチ能力
原文を理解するための高い読解力と、それに相当するターゲット言語の表現力が求められます。
また、新しい概念や製品に遭遇した際は、自らリサーチして適切な訳語を探す力が必要です。 - 正確性と一貫性を保つための管理能力
産業翻訳では、大量の文書や納期が短いプロジェクトに対応する必要があります。
そのため、翻訳メモリ(フレーズを蓄積するデータベース)や用語集を活用し、繰り返し出てくるフレーズの翻訳作業を省略したり、訳語のゆれを防いだりするための管理能力が重要です。 - コミュニケーション能力
特にフリーランスの翻訳者として働く場合、クライアントやプロジェクトマネージャーとのやり取りで疑問点や要望を整理し、訳文の意図をすり合わせる場面が頻繁に発生します。
スムーズにコミュニケーションを取り、最終的にクライアントが求める品質と納期に応える調整力も求められます。
5. 産業翻訳のフロー
産業翻訳の業務フローは、基本的に以下のステップに分けられます。
- プロジェクト依頼・要件定義
クライアントからの依頼を受け、翻訳対象の分野や文書の長さ、納期、求めるスタイルなどを確認します。必要に応じて参考資料(用語集、過去の翻訳例など)が提供されます。 - 準備(リサーチ・用語集作成)
翻訳する文書についてリサーチを行い、専門用語の調査をしたり、既存の用語集・翻訳メモリを整備したりします。プロジェクトによってはクライアントから提供された社内用語集・ガイドラインに従う必要があるため、それらも確認します。 - 翻訳作業
実際の翻訳作業に着手します。翻訳メモリやCATツール(Computer-Assisted Translation Tool)を活用しながら、文書全体を訳出していきます。大規模プロジェクトの場合、複数の翻訳者が同時に作業を進めることが多く、その際には用語や表現の統一を図るための連絡・調整が欠かせません。 - 品質チェック(レビュー・校正)
翻訳が一通り完了したら、チェッカー、レビュアー、校正者が訳文を確認します。用語の正確性、文法・スペルミスの有無、統一性などを徹底的にチェックし、必要に応じて修正します。専門性が高い場合は、社内エンジニアや医師、弁護士などの分野専門家が最終確認を行うケースもあります。 - 納品
クライアントが求める形式(Word、PDF、オンラインCMSへの入力など)で訳文を納品します。納品後にクライアントから追加修正の依頼やフィードバックがある場合も多いため、アフターケアとしての対応も重要です。 - フィードバックと次回への活用
最終的にクライアントから得られたフィードバックを元に、用語集や翻訳メモリをアップデートし、次回以降の案件に活用します。こうした継続的な改善プロセスによって、翻訳品質の底上げが図られます。
産業翻訳に適したCATツール
CATツールの「CAT」は「Computer Assisted Translation」の略で、自動翻訳はもちろん、原文の編集・翻訳文の編集もできる翻訳支援ツールを指します。

八楽株式会社が開発・提供するヤラク翻訳は、自動翻訳を下訳として活用し、その後プロの翻訳者が編集を行うポストエディットに特化しています。従来の翻訳プロセスと比較して、品質を維持しながらスピードを大幅に向上させ、翻訳コストを削減することも可能です。
また、ヤラク翻訳では、ドキュメント全体ではなく「文単位」で翻訳を発注することが可能です。これにより、自動翻訳の品質が良い文や、編集が不要な短いフレーズ、過去に翻訳したフレーズを除外して発注することができ、コスト削減につながります。
強固なセキュリティ

ヤラク翻訳は、大手企業のセキュリティ審査を通過した堅牢なシステム設計で、高いセキュリティを担保しています。
ISMS(ISO/IEC 27001:2013)認証も取得しており、ヤラク翻訳に搭載している翻訳エンジンの提供企業とは個別に契約を結んでいるため、自動翻訳に利用した文章が二次利用される心配もありません。
専門用語や固有名詞の翻訳
産業翻訳で取り扱う文書には、専門用語や企業名、製品名などの固有名詞が多く含まれますが、これらは翻訳する際にブレが生じやすい部分です。正確性が重要視される産業翻訳では、誤訳が発生すると重大なトラブルに発展するリスクもあります。
こうした課題を解決するために、ヤラク翻訳には「用語集」と「フレーズ集」という機能が用意されています。
専門用語・固有名詞の一貫性確保
ヤラク翻訳の用語集にあらかじめ専門用語や固有名詞を登録しておくと、自動翻訳時にその訳語が使用されるようになります。例えば、「safety data sheet」を「安全データシート」と一律に訳出したり、製品名を特定のブランド名で固定したりすることが可能です。
これにより、以下のような課題を解決できます。
- 誤訳の防止
専門用語が一定しない場合、ユーザーやクライアントが誤解を招くリスクが高まります。
用語集を活用することで厳密に管理されていれば、特に法律文書や契約書、医療系文書などミスが許されない文書での翻訳ミスを防げます。 - 翻訳作業の効率化
毎回専門用語の翻訳を調査したり確認したりする手間を省き、翻訳者がスピーディに作業を進められます。
特にポストエディット作業を行う際にも、訳語が固定されているため修正作業がスムーズになり、大幅な時間短縮を実現できます。
会社内での共有・管理機能
ヤラク翻訳のカンパニープランでは、組織内で用語集やフレーズ集を共有・管理できる機能も提供しています。
会社全体で共通の用語集・フレーズ集を使うことで、翻訳資産を蓄積し、継続的に翻訳品質を向上していくことができます。また、別の翻訳者が作業を行う場合でも、用語集・フレーズ集が整備されていることでスムーズに引継ぎができます。
用語集・フレーズ集を活用してデータを蓄積することで、翻訳作業時間が短縮され、最終的に翻訳にかかるコストも抑えることができます。
まとめ
産業翻訳は、技術・工業分野からIT、医薬、法務、金融まで多種多様な領域で需要が高まっています。企業のグローバル化と国際ビジネスの拡大が続く限り、正確な翻訳の需要がなくなることはありません。
特に法的リスクや安全性に直結する分野では、ほんの些細な誤訳が大きな損害を引き起こす可能性があるため、引き続き人間の専門知識と的確な判断力が必要とされる場面は多く残るでしょう。
ヤラク翻訳は、AI自動翻訳とプロの翻訳者によるポストエディットを組み合わせることで、高品質な翻訳を効率的に提供します。特にビジネスシーンにおいて、翻訳のスピードとコスト削減を両立させたい場合、ヤラク翻訳は最適な選択肢となるでしょう。
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