グローバル化が進む昨今、社内文書や社外文書の翻訳が必要になる機会が増えています。例えばニュースリリースやIR資料など、日本語以外の言語でも公開できればもちろん良いのは分かっているけれど、そこに割けるリソースがない…といった方もいるのではないでしょうか。
近年精度が飛躍的に向上しているAI自動翻訳ですが、世の中にはたくさんのエンジンが存在しています。一番よく知られているエンジンはやはりGoogle翻訳でしょうか?しかし、エンジンはこれがいい!あれがいい!という話ではなく、用途や状況に応じて使い分けることが大切です。
本記事では複数のエンジンの訳出結果を比較し、その違いや特徴を見ていきます。
ヤラク翻訳で使えるエンジン
弊社開発の翻訳プラットフォーム『ヤラク翻訳』では、複数のエンジンが使用できます。
- Google翻訳
米グーグル社が開発する翻訳エンジン。世界トップレベルの翻訳品質・スピードを達成しています。 - Microsoft Translator
米マイクロソフト社が開発する翻訳エンジン。 - ヤラク翻訳
自動翻訳の中でも珍しい、登録したフレーズを部分一致により(完全一致でなくても)翻訳文に反映できるオリジナルの翻訳エンジン。大規模なパブリック コーパスでトレーニングされたオープンソースモデルに基づく。自社開発・自社管理。 - GPT-4o
OpenAI社が開発した大規模言語モデル(LLM)の「ChatGPT」です。対話型のインターフェースを特徴とし、与える命令(プロンプト)を工夫することで、翻訳の精度を向上させたり、用途に応じた訳し分けが可能です。 - Claude
Anthropic社が開発した大規模言語モデル(LLM)の「Claude 3.5 Sonnet」です。一般的に、他のLLMに比べて日本語の出力が流暢であると言われています。※ヤラク翻訳に搭載のClaudeは、Amazon Bedrockによって提供されています。 - Papago
韓国のNAVER社が開発する翻訳エンジンです。
ヤラク翻訳では日本語、英語、韓国語、中国語 (簡体字および繁体字)、ベトナム語、タイ語、インドネシア語、フランス語、スペイン語、ロシア語、ドイツ語、イタリア語をサポートしています。 - みんなの自動翻訳@KI
国立研究開発法人 情報通信機構(NICT)が開発する翻訳エンジン。 汎用版の他に特許版、金融版(IR/適時開示・サービス)、法令契約版、サイエンス版がある。
(個人の無料ユーザーが使用できるエンジンは「ヤラク翻訳」のみです。また、カンパニープランの場合、有償オプションで「みんなの自動翻訳@TexTra®」も利用できます。対応言語はこちらからご確認ください。)
以上がヤラク翻訳上で使用できるエンジンです。本記事では、様々な特性を持つ各エンジンの訳出結果にはどのような違いがあるのか、例を用いて比較してみようと思います。
実際に各エンジンの訳出結果を比較
今回は次のようなニュースレターを英語に翻訳しました。

このニュースレターの翻訳について、各エンジンが異なる訳文を出力した例をご紹介します。
※2022年10月時点、ヤラク翻訳上での訳出結果です。
1. Microsoftが元の日本語に忠実な訳出をしている例
Microsoftのエンジンでは、他エンジンが落としている細かい情報も落とさずに訳文に反映している箇所がありました。
「『プリエディット・ポストエディット』丸わかりセミナー」という、弊社で開催したセミナーの名前に対する訳文です。
| 原文 | 『プリエディット・ポストエディット』丸わかりセミナー |
| Microsoft | ”Pre-Edit Post-Editing” Full Understanding Seminar |
| ”Pre-editing/Post-editing” Seminar | |
| ヤラク翻訳 | ”Pre-edit, post-edit” comprehensive seminar |
「丸わかり」という表現はAI自動翻訳エンジンにとってなじみがなかったのかもしれません。Googleは「丸わかり」部分をすっぽり落としています。ヤラク翻訳は「わかる」部分のみを訳出しています。そんな中、Microsoftは「丸わかり」の意味をもれなく反映させて「Full Understanding」と訳出していました。
2. Googleが他エンジンと異なる表現をしている例
Googleのエンジンについては、他と目立って異なる訳文はあまり見かけませんでした。汎用的なエンジンだと言えそうです。しかし、そのような中でもいくつかは他と異なる表現があったので一つご紹介します。
| 原文 | 「すべて確認済みにする」ボタンで、全セグメントが確認済みになります。 |
| ヤラク翻訳 | Click ‘Check all’ button to check all segments. |
| All segments will be confirmed with the ‘Confirm all’ button. | |
| Microsoft | The Mark All as Verified button confirms all segments. |
この原文に対しては、全エンジンが異なる訳出をしていました。
まず、「確認」という語彙に対する訳語が「comfirm」「check」「verify」など様々でした。そして、語彙よりも少し大きな文節の単位で見ると、「すべてを確認済みにする」という、原文では前半にあたる節を訳文で後半にもってきているのはGoogleのみでした。
ざっくりと意味をマッピングすると、以下のようなイメージです。対応する意味同士を同じ色で囲んでみました。Googleの訳出結果のみが、文節の順番が違うことが分かると思います。

操作マニュアルなど、読み手の行動を案内するテキストでは、その行動を示す部分(ここでいう「すべて確認済みにするボタンを押す」という部分)を文頭に持ってくることが多いため、ここではGoogleのみがこの文脈において慣習的でない訳出をしているということになります。
ただし、ここでは訳文の良し悪しの話ではなく、異なる表現を参照できることで表現の幅が広がる、という話にとどめておきたいと思います。
実際に各エンジンの訳出結果を比較(2025年最新版)してみました。2022年10月時点の比較ではGoogle翻訳、Microsoft Translatorが主流でしたが、2025年現在、最新の生成AI(GPT、Claude)を加えた比較を見てみましょう。ここではビジネス文書の一節を例にとります。
【原文(日本語)】
「本製品は、当社の従来品に比べ、耐久性を30%向上させつつ、コストを15%削減することに成功しました。これは、素材の見直しと製造プロセスの抜本的な改革によって実現したものです。」
【比較1】Google翻訳
This product succeeds in improving durability by 30% and reducing costs by 15% compared to our conventional products. This was achieved by reviewing materials and radically reforming the manufacturing process. (所感:忠実な直訳。数値や事実は正確に伝わるが、やや硬い印象。)
【比較2】ChatGPT
We are pleased to announce that this product has successfully improved durability by 30% and reduced costs by 15% compared to our conventional products. This achievement is the result of a review of materials and a fundamental reform of the manufacturing process. (所感:自ら「We are pleased to announce」と文脈を補完し、より自然なプレスリリース調の文章を生成した。文脈理解力が高い。)
【比較3】Claude
This product successfully improves durability by 30% while reducing costs by 15% compared to our conventional model. This was achieved through a review of materials and a fundamental reform of the manufacturing process. (所感:非常にバランスの取れた流暢な訳文。「〜しつつ」を “while reducing costs” と自然に処理している。)
4. ヤラク翻訳が他エンジンと異なる表現をしている例
ヤラク翻訳は、今回試したニュースレターの翻訳においては、他エンジンと大きく異なる訳文を出してくることがあまりありませんでした。他の3エンジンに比べて大きく優れている部分や大きく劣る部分がない、汎用的なエンジンと言えそうです。語彙単位では、他のエンジンと異なる表現を出している部分がありました。

「機能追加」の「追加」という部分に対し他3エンジンは「additional」、「added」、「addition」などと訳している中、ヤラク翻訳は「New features」と訳出しています。
以上各エンジンの文例を取り上げて見てみました。どの表現が適切なのかは媒体や状況によって変わるため、良し悪しについては触れませんが、エンジンが複数ある中で1つのエンジンが異なる表現を示してくれることもあるということが分かっていただけたかと思います。訳文を仕上げていく際にはぜひ色々なエンジンの出力を比較してみてください。
一方で、「エンジン比較は手間がかかるだけでは?」という現実的な声
ここまで各エンジンの翻訳結果の違いを見てきましたが、多くの方にとっては、「結局、どのエンジンが良いのか分からないし、毎回比較するのは面倒だ」と感じるのが正直なところでしょう。
「海外のニュース記事やメールの概要を把握したいだけなので、一番使い慣れたGoogle翻訳で十分」 「複数の翻訳結果を見比べても、どれが正しいのか判断する語学力がない」 「品質よりも、とにかく翻訳のスピードが最優先。エンジンを選んでいる時間はない」
このように、翻訳の最終的な品質よりも、手軽さやスピードを重視する場面においては、「複数のエンジンを比較する」というアプローチは、かえって非効率だと判断されるケースも少なくありません。
では、どのような場合に、この「エンジンを比較する」という一手間をかける価値があるのでしょうか。
それは、企業のブランドイメージを左右する公式な文書や、読者に誤解を与えたくない重要なマニュアルなど、翻訳の品質に妥協できないと判断した時です。
単一のエンジンの結果を鵜呑みにするのではなく、複数の選択肢の中から「今回の文脈に最も合う表現はどれか」を自ら吟味し、選択すること。それこそが、AI翻訳の時代に求められる、人間ならではの重要な役割と言えるでしょう。
まとめ:複数のエンジンを同時併用することで訳文の質を上げる
同じ文書内であっても違うエンジンの訳を採用したい場合があります。例えばニュースレターの中でも、ちょっとこなれた意訳(※)にしておきたい箇所(タイトルなど)、一語一句情報を落とさずに訳出してほしい箇所など様々ですよね。
※意訳…元の文の一語一語にとらわれず、文章の目的や意味を汲み取った表現に翻訳すること。
最適な訳文を見つけるための実践チェックリスト 翻訳エンジンによって得意・不得意があるため、1つのエンジンの結果だけを鵜呑みにせず、比較検討することが重要です。 翻訳エンジンを比較する際は、以下のチェックリストを参考に、ご自身の目的に合った「最適な訳文」を見つけてください。
【翻訳エンジン比較 実践チェックリスト】
文化適応 (Localization): 翻訳先の文化で不快感を与えない表現になっているか?
正確さ (Accuracy): 訳抜けや誤訳、数値の間違いはないか?
流暢さ (Fluency): 文法的に正しく、不自然な言い回しはないか?
専門性 (Expertise): 専門用語や固有名詞は正しく訳されているか?
文脈理解 (Context): 前後の文脈を読み取り、適切なニュアンス(例:丁寧語)が反映されているか?
スタイル (Style): ブランドのトーン(例:カジュアル、フォーマル)に合致しているか?


