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公開日: 2025/06/05

ビジネスで信頼されるアラビア語翻訳|入門から実践までしっかり解説

ビジネスで信頼されるアラビア語翻訳|入門から実践までしっかり解説

アラビア語は、中東や北アフリカを中心に3億人以上が話す言語で、エネルギー、観光、ITスタートアップなど成長分野でのビジネス展開に欠かせません。

一方で、日本企業が翻訳に取り組む際には、右から左に書く文字体系、地域ごとに異なる方言、用語集や対訳集などのリソースが少ないことなど、いくつもの課題に直面することになります。

本記事では、アラビア語の翻訳をするうえで押さえておきたい基本的な考え方や実務上のポイントを、わかりやすく説明します。

アラビア語翻訳が難しい4つの理由

  1. 語順と文法が大きく異なる
    日本語が「主語―目的語―動詞」(SOV)型であるのに対し、アラビア語は「動詞―主語―目的語」(VSO)型が基本です。

たとえば「私は資料を送った」は、アラビア語では「送った―私が―資料を」という語順になり、直訳では不自然になります。

さらに、動詞は主語の性別や数によって形が変化するため、文全体の再構成が必要です。

文の構造日本語(SOV)アラビア語(VSO)
私は 資料を 送った送った 私が 資料を
私は コーヒーを 飲んだ飲んだ 私が コーヒーを
  1. 右から左(RTL)レイアウト
    アラビア語は右から左に書かれるため、PDFやWebページをそのまま翻訳すると、段落の順序や図表の位置が逆になり、レイアウトが崩れることがあります。

特に表やインフォグラフィックのようなビジュアル要素は、右から左の表示に合わせて再配置する必要があります。

  1. 方言分化が激しい
    アラビア語は、国や地域によって方言が大きく異なる言語です。ニュースや法律文書では「現代標準アラビア語(MSA)」が使われますが、広告、SNS、動画などでは地域方言が主流です。
地域方言での表現(意味:車)備考
エジプト‘arabeyya(عربية)口語で一般的。映画・TVでも頻出
湾岸sayyāra(سيارة)MSAの語。日常会話でも自然に使われる
モロッコṭonobil(طونوبيل)フランス語起源。ダリジャで広く使用

例えば「車」を表す言葉一つをとっても:

エジプト方言では:‘arabeyya 

湾岸諸国では:sayyāra 

モロッコ方言では:ṭonobil(フランス語の影響を受けた語)

※さらにモロッコ方言(ダリジャ)は、フランス語やベルベル語由来の語彙が混在しており、アラビア語スピーカー同士でも通じにくいことがあります。

ビジネスの場でMSAと方言の使い分けを誤ると、「公的な文脈で方言を使うのは失礼」と捉えられることもあり、商談トラブルに発展する可能性もあります。

  1. 翻訳リソースが少ない
    アラビア語は、欧州系の言語と比べて、公開コーパスや汎用的な用語集が限られており、翻訳作業が属人的になりやすい傾向があります。特に医薬、金融、法律などの専門分野では、用語や表現の揺れがそのまま品質に直結するため、翻訳支援の仕組みをどう整えるかが重要です。

こうした課題に対応する方法として、翻訳メモリや用語ベース、フレーズ集といった機能を備えたCATツール*の活用が有効です。

文書を通して表現を統一したり、翻訳者間での品質のばらつきを抑えることができ、チーム全体で安定した品質を維持しやすくなります。特にアラビア語のように構造の異なる言語では、翻訳資産を蓄積しながら運用できる体制が、品質とスピードの両立に不可欠です。

(*CATツール:翻訳作業を効率化し、品質を向上させるためのソフトウェアです。人間の翻訳者が作業する際に、機械翻訳(MT)や翻訳メモリ(TM)、用語集管理などを活用し、人とAIによって品質を保ちつつ効率的な翻訳をサポートします。

アラビア語翻訳、外注と内製はどう使い分ける?

アラビア語翻訳では、翻訳の目的や内容、体制によって最適な進め方が変わってきます。
ここでは、外注と内製、それぞれの特徴と向いているケースをご紹介します。

外注が向いているケース

アラビア語は、言葉の使い方ひとつで印象や意味が大きく変わる言語です。特に、湾岸アラビア語やモロッコ方言など、標準語(MSA)とは異なる表現が使われる場面では、翻訳者の経験や語感が仕上がりを大きく左右します。

たとえば以下のような文書は、専門の翻訳者や翻訳会社に依頼した方が安心です:

  • 契約書や法律文書など、正確さが重視される文書
  • 広報・マーケティング資料のように、読み手の印象が重要なコンテンツ
  • 方言の使い分けや、文化的な配慮が求められる文章

プロに任せることで、言葉選びや文体のトーン調整、文法的な精度、文化的含意への配慮など、自社で対応しにくい要素まで含めて翻訳の品質を担保できます。

内製が向いているケース

一方ですべて外注に頼ると、コストがかさむうえに、納期調整やコミュニケーションにも時間がかかることがあります。特に、業務内で繰り返し発生する文書や、内容に大きな変更がない資料については、翻訳支援ツール(CAT)を活用した内製対応が現実的な選択肢になります。

ただし、内製が本当に効果を発揮するのは、社内にアラビア語に一定の知見を持つ人材がいる場合です。完璧なネイティブレベルでなくても、基本的な読解力や構文理解があれば、機械翻訳のポストエディットや用語のチェックを社内でこなせる可能性があります。

また、次のようなケースでは、外部よりも社内の方が内容やニュアンスを正確にくみ取れるため、内製が特に向いていると言えるでしょう。

  • マニュアルや日報、FAQなど、定型的で繰り返しが多い文書
     内容や構成が似ているため、翻訳メモリやテンプレートを活用しやすく、社内での翻訳効率が高まります。
  • 過去に同じような翻訳実績があり、社内にストックがある場合
     既存の訳例を再利用することで、一貫した品質を保ちながら作業時間を短縮できます。
  • 社内用語や人物の言い回しを理解している必要がある場合
     社外の翻訳者には伝わりにくい「人柄」や「社内文化」を含んだ言い回しは、社内のメンバーだからこそ自然な表現に落とし込めることがあります。
  • 品質よりスピードが優先されるドキュメント
     即時性を求められるメールやチャット、速報系資料などは、社内対応が圧倒的にスムーズです。

翻訳支援ツールを併用すれば、用語の自動統一・既訳の再利用・レイアウト保持・レビューの一元化といったメリットも享受できます。ツールに翻訳メモリや社内ルールを組み込んで運用することで、属人化を防ぎつつ、一定水準以上の品質を保ちながら社内のスピード感を維持することが可能です。

ハイブリッド運用という選択肢

最近では、「外注か内製か」ではなく、翻訳ツールを活用しつつ、必要な部分だけプロに任せるという柔軟な運用も広がっています。
たとえば、ツールで初稿を作成し、仕上げだけを外部に委託することで、コストを抑えながら品質も担保することができます。

こうしたハイブリッド型の体制は、業務ボリュームが多い企業にとって、現実的かつ効率的な選択肢です。

アラビア語翻訳におけるポストエディット(後編集)の重要性

多くの翻訳プロジェクトで機械翻訳を導入する理由は、初稿作成の高速化とコスト削減にあります。しかし、アラビア語は文構造・文法・文化背景の点で日本語と著しく異なるため、機械翻訳の出力訳をそのまま使うのは非常にリスクが高いとされています。

ポストエディットでは、単に誤字や語順を直すだけでなく、「この表現はアラビア語話者にとって自然か?」「敬意や宗教的な配慮を反映する表現になっていいるか?」といった文化的・実務的な観点からも調整を加える必要があります。

アラビア語ならではのポストエディット(後編集)の注意点

1.文法と語順の調整

アラビア語の語順は基本的に「動詞–主語–目的語(VSO)」で、日本語の「主語–目的語–動詞(SOV)」とは根本的に異なります。たとえば、日本語で「私は資料を送った」と言いたいとき、アラビア語では「送った 私が 資料を」のような語順になります。

しかし、機械翻訳ではこの構造をうまく変換できず、日本語の語順のまま訳されることが多く、不自然な訳文になることがあります。特に動詞の位置が後ろに来ると、ネイティブの読み手にとっては「ぎこちなく不正確な文」と感じられやすくなります。

さらに厄介なのが、アラビア語では動詞が主語の性別(男性/女性)や数(単数/複数)に応じて活用されるという点です。機械翻訳はこの活用ルールを正確に判断できないことが多く、主語と動詞の一致ミスが頻繁に発生します。ポストエディットでは、単語の並びを調整するだけでなく、動詞の語尾変化までチェックして修正する必要があります。

2.語彙の選定と方言の調整

アラビア語翻訳において大きな注意点のひとつが、同じ意味でも地域によって使われる単語や表現がまったく異なるということです。これは単なる「言い回しの違い」ではなく、訳文が相手に通じない、あるいは失礼に受け取られる可能性があるという、翻訳の精度に直結する問題です。

たとえば、日本語で「資料を受け取りました」と伝えたいとします。このシンプルなフレーズでさえ、地域によって訳し方は以下のように変わります。

地域表現説明
MSA(標準語)استلمتُ المستندات最もフォーマルで公的な文書に適している
MSA(標準語)استلمت الورقカジュアルで話し言葉らしい響き。紙=資料という発想
MSA(標準語)وصلتني الأوراق「届いた」という感覚に近く、親しい関係で使われやすい
モロッコ方言جاوني الدوكيموフランス語由来の「document(ドキュメント)」が使われることも。ダリジャ特有

このように、「資料を受け取った」だけでも、語彙選定・語順・語感が大きく異なります。
機械翻訳は、通常 MSA の表現を出力しますが、口語表現が求められるメール・チャット・SNS などで MSA をそのまま使うと、硬すぎたり距離を感じさせることもあります。

一方で、公式なビジネス文書では、こうした方言表現を用いると「失礼」「不適切」と受け止められる可能性もあるため、ポストエディットでは用途に応じて MSA と方言を適切に使い分けることが求められます。

「誰に向けて、どんなトーンで伝えるのか?」という判断は、機械翻訳だけでは難しく、最終的には人の判断力と文脈理解が重要になります。

3.敬称や宗教的配慮の挿入

アラビア語圏では、挨拶や人名の前後に敬称をつけることが非常に一般的です。また、文章の冒頭や結びには、宗教に基づく定型表現(祈念句)を加えるのが礼儀とされています。

たとえば、「こんにちは」とだけ訳してしまうと、アラビア語のビジネス文化ではあまりにも素っ気ない印象を与えてしまいます。実際には以下のような表現が望ましいことが多いです:

  • 挨拶の例:السلام عليكم ورحمة الله وبركاته(平安と神の祝福がありますように)
  • 敬称の例:الأستاذ محمد(ムハンマド氏)、الدكتور علي(アリ博士)
  • 祈念句の例:إن شاء الله(神の思し召しなら)/الحمد لله(神に感謝を)

これらは機械翻訳ではまず出力されません。ポストエディットの段階で、相手との関係性やビジネスシーンに応じて適切な敬称や祈念句を挿入する必要があります。特に宗教的な言い回しは敬意や礼節を表す手段として機能しており、省略すると「無礼」と捉えられるリスクもあるため、翻訳担当者には文化的な感受性が求められます。

4.RTL(右→左)構文と句読点の再確認

アラビア語は右から左に書かれるため、翻訳後にレイアウト調整が必要になるケースが多くあります。

たとえば、句読点の位置・数字の並び・箇条書きの方向などが崩れると、文意が損なわれるだけでなく視認性も下がる可能性があります。

まとめ:アラビア語翻訳で成果を上げるために必要な視点とは

アラビア語を翻訳する際には、右から左の表記、語順の違い、方言の多様性、文化・宗教への配慮など、他言語にはない特有の課題に直面します。

専門的な知識が求められる場面も多いですが、適切なツールを選べば、社内でも一定の品質を保った翻訳が可能です。

用語の統一、レイアウトの自動整形、レビューのしやすさといった機能が整った翻訳支援ツールを活用すれば、属人化を防ぎながら翻訳業務の精度と効率を大きく向上させることができます。 

もちろん、機械翻訳の出力をそのまま使うのではなく、ポストエディットによる調整は不可欠です。文書の種類に応じて、方言の切り替えや敬称の追加、RTL対応などの細やかな対応を行うことで、読み手にとって自然で信頼できる訳文に仕上げることができます。アラビア語圏への発信が増える今、そうした翻訳環境づくりこそが、成果につながる第一歩です。

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この記事の執筆者:Yaraku ライティングチーム

翻訳者や自動翻訳研究者、マーケターなどの多種多様な専門分野を持つライターで構成されています。各自の得意分野を「翻訳」のテーマの中に混ぜ合わせ、有益な情報発信に努めています。


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